Craif株式会社 ―部活動でも、勉強でも、趣味でも「やり切った」と言える経験が大切【ヒアリング】
本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。
東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中からCraif株式会社を対象としたヒアリング内容をご紹介します。
業種
医療
本社所在地
東京都新宿区
創業年/設立年
2018年
事業内容
がん領域を中心とした疾患の早期発見や個別化医療、次世代検査の研究開発、がんリスク検査 miSignal®︎(マイシグナル)の提供
企業規模
99人 ※2025年12月31日時点
平均年齢
34歳 ※2025年12月31日時点
海外拠点
・米国法人
・研究ラボ/ビジネスオフィス(米国カリフォルニア州サンディエゴ)
がんを早期発見する技術を世に届け、
「人々が天寿を全うする社会の実現」に取り組む。
― 貴社の事業概要や理念についてお聞かせください。
Craifのビジョンは「人々が天寿を全うする社会の実現」です。医療の中心を「治療」から「予防・早期発見」へと変えていきたいと考えています。
当社は、バイオテクノロジー×AIの社会実装により、がんをはじめとする疾患の早期発見や、一人ひとりの体の状態に応じた個別化医療の実現を支えます。
当社が展開するがんリスク検査「miSignal SCAN(マイシグナル・スキャン)」は尿のマイクロRNA※1を調べ、がんリスクを「ステージ1」から判定できる検査です。一度の尿検査で日本のがん死亡総数の約8割を占める10種のがんリスクを判定します。
※1 マイクロRNA:細胞内で遺伝子の働きを調節する小さなRNA(リボ核酸)分子。 がんなどの病気の診断や治療にも応用が期待されている。
― 創業の経緯について教えてください。
当社は2018年、名古屋大学発バイオAIスタートアップとして創業しました。マイクロRNAは2010年代にがん研究のメインストリームになると言われていた分野であり、日本が世界をリードする革新的な領域です。当時名古屋大学に所属していた共同創業者の安井隆雄(現東京工業大学生命理工学院教授/Craif技術顧問)はナノ加工技術の生物分野への応用の第一人者であり、医学の常識であった「血液」にとらわれず、工学ならではの発想で侵襲性が低く簡便に採取できる「尿」の利便性に着目し研究を開始。尿中のマイクロRNA捕捉に成功し、大量のマイクロRNAが尿中に存在することを発見しました。がん種別にマイクロRNAの特徴が異なることを明らかにし、がんの早期発見への可能性を切り開きました。
同時期、三菱商事株式会社で働いていた代表の小野瀨が祖父母のがん罹患をきっかけに創業を決意しました。投資家の紹介で安井と出会い意気投合。人々が天寿を全うする社会の実現を掲げCraif株式会社を創業しました。
技術で、社会課題を解く。
がん医療を根本的に変革し、個人と社会を幸福に。
― 貴社の取組によって、社会は今後どのように変化していくとお考え ですか?
私たちは、検査技術の普及によってがん医療そのものを根本から変えていきたいと考えています。がんを早期に発見し、早期に治療へつなげることができれば、個人の幸福度は大きく高まり、国全体としても医療費の削減が期待できます。
更なる信頼性の向上と医療現場への普及に向けて、現在、医療機器としての承認及び保険適用を目指して臨床試験を進めており、2026年中に承認申請を行う予定です。
既に企業が従業員に対し補助を行う例や、自治体が導入を検討する動きも出てきています。特に人口流入が少ない地域では、就労世代の死亡は地域経済にとって大きな損失であり、医療アクセスが限られる地域では、病院に行かずに受けられる尿検査の価値は非常に高いと考えています。
また、日本では多くの世帯ががん保険に加入しています。もしもの時に備えることはとても重要ですが、健康も大切な資産です。お金が入ってきても健康を失ってしまってはご本人やご家族、周囲の方の人生を真に豊かなものにするとは言えません。お金の備えと同じぐらい、健康を保つ「予防」という備えもとても大切です。
さらに、日本発ディープテックスタートアップとしての使命も感じています。日本は世界に誇る数々の素晴らしいプロダクトを生み出してきた国ですが、世界時価総額ランキングTOP50の平成元年と平成31年との比較で数多くの日本企業が米国、中国企業に取って代わられたことは非常に有名です。もう一度メイドインジャパンを世界へ、という強い使命感を持っているメンバーも多いです。
研究開発とディープテックは、日本が国際競争力を高める鍵。
世界を見据えて挑戦する姿勢こそが競争力の源泉。
― 世界と伍して渡り合うために、貴社が大切にしている価値観や、創業者ご自身の原体験について教えてください。
小野瀨の原点には、幼少期に海外で暮らした経験があります。現地で日本の技術力が高く評価されていることを肌で感じたそうです。しかし、大人になり、商社勤務で再び海外に出た際には、世界のテクノロジー競争の中で日本の存在感が薄れている現実に強い衝撃を受けました。そこから「日本のプレゼンスをもう一度高めたい」という思いが明確になったといいます。
創業後、シリーズAから米国での資金調達を目指した際には、当社を評価してくださっている方からも「米国では難しいのではないか、時間とお金の無駄になってしまうのではないか」と心配されました。しかし、実際に渡米し専門性の高い米国の投資家と必死で向き合った結果、最終的に複数の米国投資家から投資を得ることができました。「無理」だと最初から決まっていることは何一つないのだと証明した、我々の強烈な原体験です。
また、当社には「日本から世界に挑戦したい」という強い意志を持つメンバーが多く集まっています。資源や国土が潤沢にあるわけではない日本が世界で戦うためには、研究開発やディープテックこそが鍵であり、「世界をリードする研究を行い、プロダクトを世界に届ける」ことを日々の挑戦として掲げています。
社内では「我々のプロダクトを世界中の人に使っていただくためには」という言葉が日常的に交わされています。「世界は難しい」と構えるのではなく、「世界で勝つ」という文化が根づいていることこそが、当社の競争力の源になっています。
米国カリフォルニア州アーバインの研究ラボ
バリューは多様なメンバーの方向性を揃えるための指針。
マインドセットでなく、日々の行動で体現することが重要。
― 貴社が掲げる五つのバリューは、どのような経緯やタイミングで策定されたのでしょうか?
ビジョンは創業初期から存在していましたが、バリューを明確にしたのは創業から半年ほど経った頃です。世界で戦い、生き残るために必要な姿勢を考えたとき、異なる価値観やキャリアを持つメンバーが最大限に力を発揮するための指針が不可欠だと感じました。そこで、「こうありたい」「こうあるべき」という共通の方向性を整理し、メンバー間で価値観を
すり合わせながら五つのバリューとしてまとめました。
― 貴社では、どのような能力・スキルを重視していますか?
当社では、求める能力やスキルはバリューそのものに表れています。例えば、「Focus on Goals」は、目的設定や課題の本質を捉える力を求めるものです。「Be a Driver」は、プロジェクトの規模に関わらず主体的に推進する姿勢を示し、「Deliver Fast」は、完璧さよりもスピードを重視し、まずは形にして前に進める行動を意味します。これらは単なるマインドセットではなく、日々の行動として体現することが重要です。当社では役職やグレードごとに、バリューをどのレベルで体現すべきかを細かく定義し、評価や昇格にも直結させています。
― 貴社における人材育成の取組について教えてください。
新入社員にはオリエンテーションを実施し、会社のカルチャーや事業、研究に関する基礎知識などを学ぶ機会を設けています。さらに四半期毎に新たに入社した社員を対象にケースワーク形式のトレーニングを実施し、Craifにおけるビジネス上の基礎動作やロジカルシンキングなど、当社で働く上で必要なスキルを習得してもらっています。
当社ではバリューの体現をとても重視しています。定期的に、実際の例や社員が抱える悩みを題材に、バリューについてのワークショップを行います。そこでは、毎度マイクの取り合いになるほど社員一人ひとりがオープンに自分の考えや経験、疑問を共有します。本気でバリューに向き合い語り合う時間に、企業としても投資しています。
Craif株式会社のバリュー
世界で活躍する人材に求められる資質は、
常識を疑い、物事をフラットに捉えて挑戦し続ける姿勢。
― 協力的で信頼し合う社風も重視されているとのことです。
当社では、一人ひとりが持つ「善性」を非常に重視しています。多くの企業や組織で起きる現象だと思いますが、仕事ができると、多少コミュニケーションがきつくなったり、他の人への当たりが強くなったりしても、ある程度許されてしまうという風潮があります。
しかし、私たちはさまざまなチームワークの成功や失敗から、「良いチームの作り手である」ことこそ、重要な仕事のスキルであると気付きました。
当社には「Empower your Team」というバリューがあります。
これは、自分たちが実現したい壮大なビジョンが「個の強さ」だけで実現できるものではないことを理解し、境界線を引かず、苦しんでいるメンバーがいたら手を差し伸べることこそ是であると定義したものです。そのためには、率直にフィードバックを伝え、受け取るという相互のコミュニケーションがとても大切であり、それらを徹底してこそ組織が強く成長すると確信しています。
― グローバルで活躍する社員の中でも、特に活躍している社員にはどのような能力・スキルが見られますか?
大前提として、当社が掲げる五つのバリューを体現している人が活躍しています。加えて挙げるとすれば、「フラットな考え方」でしょうか。常識や既存の概念にとらわれず、ゴール設定や課題発見に取り組むことが大きな活躍につながっているように思います。
尿でがんリスクを検査するという当社のサービスは、「体液で検査するならば血液だ」という医療業界の常識に必ずしも沿うものではありません。また、「今アメリカに進出するのは無謀だ」といったご助言は少なからずいただきましたが、それでも米国進出を選びました。目の前の先入観や常識にとらわれず、物事をフラットに捉え、自分たちが正しいと信じる方向に挑戦し続ける姿勢こそが、活躍につながると考えています。
優秀な若者がつまづかないように、礼節や気配りといった
昔ながらの作法を伝えていくことも会社の責任。
― 貴社からご覧になって、日本の20代の若手人材にはどのような特長があるとお考えですか?
当社には若い人材が多く、高専生のインターンも働いています。また、新卒採用を通じて大学生の方と接する機会も少なからずあります。そういった機会の中で接する若手人材の方々は、コミュニケーション能力が非常に高いと感じます。インターンシップで大学生の皆さんとグループワークを行った際には、まず「情報共有のプラットフォームを何にするか」という議論から始まり、スピーディーにデータを共有しながら課題を進められていて、生産性の高さに大変驚きました。彼らはまさにデジタルネイティブで、私たちの世代が教わることの方が多いように思います。
また、インターネット等を介して多くの情報に触れ、多様なキャリアの選択肢を持っている印象があります。「この会社に入りさえすれば安泰」という考えを持つ方よりも、「自分のキャリアをどう形成するか、そのためにどのような経験を積むべきか」といった明確なビジョンを持っている方が多いと感じています。
― 一方で、課題や不足を感じられる点があればお聞かせください。
当社で働く、特に30代以上の世代は、私自身も含め「昭和を生き抜いたプロ」の指導を受けてきた世代です。当時は徹夜もいとわず働き、お酌やテーブルの気配りなど、いわゆる「昭和・平成初期の作法」を叩き込まれました。今振り返ると時代にそぐわない部分もありますが、周囲への気配りを教わり、がむしゃらにハードワークして得られる経験も積ませていただきました。
若い世代の方々はとても優秀ですから、温故知新という言葉のとおり、そこに伝統への理解や礼儀作法、「やる時にはやる」というハードワークのタフさが加われば、まさに鬼に金棒でしょう。
もちろん、ハラスメントにつながるような古い慣習は排除すべきですが、いろいろな世代、いろいろなタレントと一緒に働くに当たって、自身の選択肢、や武器の引き出しが増えるような育成と環境づくりに、会社として取り組むべきだと考えています。
他人と自分を簡単に比べられる時代だからこそ、
何かを一生懸命やり切った経験が、人生を支える力になる。
― 現在の日本社会の課題は何だと思いますか?
日本社会の課題を一つ挙げるとすれば、真面目に学べば学ぶほど「常識に縛られやすい」という点ではないかと思います。常識や既存の概念を、時に疑う力が育まれるような教育機会があれば、とても良いのではないかと思います。
「できない」「ありえない」と決めつけてしまうことで、自ら限界を作ってしまうケースも少なくありません。だからこそ、時にその制約を取り払って、物事をフラットに考えてみる姿勢を身に付ける教育が重要だと考えています。
特にこれからの時代は、AIが人間の想像を超えて驚くべき発展を遂げるなど、前例や常識が必ずしも正解ではなく、むしろ新しい視点や発想が価値を生む場面が増えてくるでしょう。そうした環境で活躍するためには、与えられた枠組みにとらわれず、自ら問いを立て、可能性を探る力が欠かせません。公教育の中で、そうした思考の土台を育てる取組がより一層進むことを期待しています。
― 若者へのメッセージをお願いします。
「これだけは頑張った」と胸を張って言えるものを持つことは、人生において大きな力になります。現代はSNSなど比較の手段が多く、他人と自分を簡単に比べられる環境にあります。そのため、自信を失い、必要以上に悩んでしまう人も少なくないように思います。
だからこそ、賞や肩書がなくても「やり切った」と言える経験が重要だと考えています。部活動でも、勉強でも、趣味でも構いません。自分の力で積み上げた努力は必ず自分の糧となり、将来、困難に直面したときにも確かな支えになるはずです。
令和6年度「東京都ベンチャー技術大賞」及び「女性活躍推進知事特別賞」を受賞