木口佳南さん ―学生時代の挑戦をきっかけにAI戦略の最前線へ【ヒアリング】
本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。
東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から木口佳南さんへのヒアリング内容をご紹介します。
ソフトバンク株式会社 木口 佳南
ソフトバンク株式会社において、AI関連の経営戦略企画を担当。大学在学中はAIを専門的に学び、機械学習、自然言語処理、深層学習など幅広い分野で知識と技術を磨く。学業と並行して、国立研究開発法人科学技術振興機構の「Solve for SDGs」で研究活動を行うほか、複数の企業においてAIエンジニア、データサイエンティスト、プロダクトマネジャーとして活動し、数多くのAIプロダクトのリリースに関わる。2024年には、ソフトバンクグループの後継者及びAI群戦略を担う事業家を発掘・育成することを目的とした「ソフトバンクアカデミア」に入校。
学生時代には、「学長賞」の受賞、学生団体の設立・運営、AI関連ビジネスコンテストで複数回優勝するなど、多方面で活躍。さらに、執筆した論文が電気・情報工学系の国際ジャーナル「IEEE Access」に採択されるなど、研究面でも成果を挙げる。
ソフトバンク株式会社入社
学生時代の挑戦がきっかけとなり、AI戦略の最前線へ。
AI時代を牽引するルールメイカーとなるべく挑戦し続ける。
― ソフトバンク株式会社に入社された経緯と、現在の業務内容についてお聞かせください。
大学在学中、ソフトバンク株式会社の創業者である孫正義氏に対してプレゼンテーションを行うチャンスをつかみました。持ち時間はわずか3分。その限られた時間で印象を残し、価値を伝えるために何が必要かを徹底的に考え抜きました。この挑戦を成功させたことが大きな転機となり、大学卒業後にソフトバンク株式会社へ入社しました。
現在の主な業務は、AI関連の経営戦略企画やプロジェクト推進です。AIに注力しているソフトバンクだからこそ、こうした業務を通じて、全社的な視点と新しい常識を創り上げる力を養える環境にあると強く実感しています。
― 現在の立場を踏まえ、今後どのような取組を目指していますか?
私は、愛着を持つ日本で何ができるかを重視しています。どれほど優れたAI技術を開発しても、日本で普及させるためには、日本の文化や価値観を踏まえ、現実的な社会実装の方法を示すことが不可欠です。そのため、今後は日本のAI時代を加速させるべく、現実的かつ革新的な枠組みをつくるために、日本の法律への理解を深め、客観的に発言できる立場を目指しています。
まずは、AGI(汎用人工知能)時代の到来を見据え、AIを利活用すべき領域とそうでない領域を整理し、新たな時代のルールメイカーとして倫理やガバナンスの観点から社会にアプローチしていきたいと考えています。
― これまでの行動を支えてきた原動力は何ですか?
AIの持つ可能性には強い魅力を感じており、その技術を社会に適切に実装することに大きなやりがいと楽しさを覚えています。しかし、それ以上に私の原動力となっているのは、困難な時期にも見守ってくれた父と母に恩返しをしたいという思いです。両親が喜んでくれるよう、AI分野で確かな成果を上げ、自立し、社会的に認められる人間を目指しています。
負けず嫌いで「一番になること」へのこだわりがあった幼少期。
苦しい時期には、いつも両親が寄り添い、支えてくれた。
― どのような家庭で育ちましたか?
私は小学生の頃からプライドが高く、負けず嫌いな性格でした。習字を習っていた際には「全国1位を取るまでやめない」と決意し、努力を重ねました。その結果、小学6年生の時に全国1位を達成することができました。さらに、絵画の国際コンクールにおいても、寝る間を惜しんで制作に打ち込み1位を獲得するなど、当時から「一番になること」への強いこだわりがあったのだと思います。
父は経営者であり、常にリーダーシップを発揮する存在でした。その姿は私にとって非常に印象的で、「ナンバーワンはかっこいい」という思いを抱くきっかけとなりました。父の背中を見て、私自身も「一番になりたい」「かっこいい人間になりたい」という気持ちを持つようになりました。
私の家庭は「あなたのやりたいようにやりなさい」という方針で、自由に挑戦できる環境でした。習い事も幅広く経験させてもらい、その中で自分の興味や可能性を探ることができました。私がどんな挑戦をする時も、両親は私の挑戦を支え続けてくれました。
― どのような学生時代を過ごしましたか?
中学校では生徒会長を務めました。しかし、人間関係のもつれがあり、精神的に追い詰められ、生徒会長でありながら学校に通えない時期がありました。当時は家族の支えや、気にかけてくれた友人のおかげで、なんとか復帰することができました。
高校進学後は、医学部への進学を目指すコースに所属していました。しかし、AIを学ぶという自身のキャリアに挑戦しようとする中で、周囲から反対の声が上がるなど、次第に環境との不一致を感じるようになり、苦しい日々が続きました。勉強自体は好きでしたが、この環境では続けられないと判断し、高校3年生の時に通信制高校へ転校しました。その決断の際も、両親は変わらず応援してくれました。
授業で偶然出会った「AI」に強く心惹かれ、新設大学へ。
大学でのビジネスコンテスト出場が、成長の機会となった。
― 大学への進路選択の経緯について教えてください。
高校の探究学習の授業で一度だけ触れた「AI」という分野に強い関心を抱いたことがきっかけとなり、次第にこの道を志すようになりました。
進学先を探す中で、大阪国際工科専門職大学の新設を知りました。当時、国内にはAIに特化したカリキュラムを持つ大学はほとんどなく、「ここで学びたい」という思いが強まりました。国立大学への進学も選択肢にありましたが、既存の枠組みに疲れていたこともあり、「新しい大学なら自由に挑戦できるかもしれない」という期待を抱きました。親からは初めて反対されましたが、確信はなくても「飛び込んでみよう」と決意しました。
― これまで、成長のきっかけとなった経験を教えてください。
大学1年生の時、学内で開催されたビジネスコンテストに出場した経験は、私にとって大きな成長のきっかけとなりました。テーマは「社会課題を技術で解決し、ビジネスとして成立させる」というもので、当時の私はプレゼンテーションの経験がほとんどなく、戸惑いながらの挑戦でした。それでも、自分にとって身近な課題を選び、考えを込めて発表した結果、共感を得ることができ、優勝につながりました。
この経験を通じて、技術と社会をつなぐことの面白さを実感すると同時に、「社会からどう見えるか」「市場で何が求められているか」という視点を持つ重要性を学びました。さらに、別のコンテストでは、不登校の学生を支援するAIのアイデアを提案しました。この発想の原点には、中高時代に不登校を経験した自分自身の体験があります。それまで誰にも話したことのなかった経験でしたが、初めてチームメンバーに打ち明けると、一緒に真剣にアイデアを練ってくれました。
最近では、過去の辛い経験も決して悪いことばかりではなかったと感じています。そうした経験から生まれる強い意志や「見返してやる」という思いは、ビジネスコンテストのようなアウトプットの場で大きな力になっていると実感しています。
強みを見極め、努力を重ねて成果へ結びつけることが重要。
AI時代こそ、抜きん出たスペシャリストになることが必要。
― これまでの活動や取組が成功した要因は何でしょうか?
私はこれまで、さまざまな習い事や活動に積極的に取り組み、「一番になりたい」という強い意志を持って挑戦してきました。しかし、すべてが続いたわけではなく、途中で諦めたことも少なくありません。その違いは、自分が「得意だ」と感じられるかどうかにあったと思います。親や先生に褒められることで「できるかもしれない」という自信を持てた一方、周囲と比較して明らかに劣っていると感じた場合には、迷わず諦めてきました。
こうした経験を通じて、自分の強みを認識できる環境が重要だと感じています。そして、わずかでも可能性を感じたことには徹底的に取り組み、努力を重ねて成果につなげることを目指してきました。特別な学歴や経歴に頼らなくとも、努力次第で道を切り開ける。そのことを、自分自身の歩みで示したいと考えています。
― 現在の日本社会の課題は何だと思いますか?
日本特有の礼儀や作法には強い魅力を感じており、私自身そうした文化がとても好きです。一方で、私のように少し人と違うことにも挑戦しつつ率直に意見を述べるタイプは、時に受け入れられにくいと感じることがあります。自分の取組を発信することに抵抗感を持ったり、実際発信後に否定され、自己肯定感を失う場面も少なくありません。こうした人々がもっと受け入れられる社会になってほしいと思っています。
― AI時代に世界で活躍するために必要となる資質・スキルは?
AI時代に求められる素養については、今後ますます「中途半端なスキル」が価値を持たなくなると考えています。必要なのは、特定分野における専門性や突出した熱意や興味、スキルです。これはエンジニアに限らず、他の分野でも同様です。こうしたスペシャリストがAIに関心を持てば、自身の得意領域でAIを活用でき、その分野におけるAIの普及も加速すると考えています。
世界には多様な選択肢や挑戦の機会が広がっている。
さまざまな経験を重ね、興味を持ったことに集中してほしい。
― 同世代の若者が挑戦していくためには、どのようなサポートが必要ですか?
私は、二つの環境を整えることが重要だと考えています。第一に、興味の幅を広げ、自分の世界を広げられる環境です。多様な領域に触れ、「これは面白そう」「これは自分には合わない」という経験を積むことが大切です。第二に、その過程で見つけた「集中できるもの」を伸ばせる環境です。「視野を広げる機会」と「見つけたものを深める機会」が不可欠だと思います。
加えて、中高生への情報提供を充実させる必要があります。私自身、中高時代は学校のカリキュラムや校内活動に視野が限定されており、幅広い機会を知ることができませんでした。一方で、社会で活躍している方々は、早期から大会やプログラム、海外留学など、多様な経験を積んでいます。情報格差は、私自身が強く感じてきた課題です。
そして本質的な課題は、若者が「心から熱中できるもの」に出会えていないことです。若者が世界で活躍できる人材へと成長するためには、小中高生の段階から、意欲を持って挑戦できる経験や幅広い知識に触れる機会が欠かせません。それには学校教育だけでは十分とは言えないため、外部からそうした機会を届ける取組が大切だと考えています。
― 最後に、同世代の若者や後輩たちにメッセージをお願いします。
「今見えている世界がすべてではない」という認識を持つことが大切です。世界には多様な選択肢や挑戦の機会が広がっています。
勉強が得意かどうかに関わらず、重要なのは自ら興味を持ち、「こうなりたい」と意欲を持つことです。「これがよい」と自分の心が納得した瞬間があれば、その感覚を信じて一歩を踏み出してみてください。周囲から否定的な意見を受けることもあるかもしれませんが、自分が心から「やりたい」と思えるものを見つけた瞬間は、それだけで大きな価値があります。その感覚を大切にし、ぜひ何かに熱中してみてください。