佐々木柚榎さん ―「好き」を追究し続け、宇宙線の研究活動やコンテストに挑戦【ヒアリング】
本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。
東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から佐々木柚榎さんへのヒアリング内容をご紹介します。
イタリア・UWC Adriatic 佐々木 柚榎
宇宙の成り立ちに興味を抱き、素粒子や宇宙線、放射線を測定する手法についての研究を行う。2024年、孫正義育英財団の第8期生に選ばれる。その後、高校ではチーム「Sakura Particles」の一員として、高校生国際素粒子実験コンテスト「Beamline for Schools」に参加し、日本チームとして初めて最優秀賞を獲得。2025年、国際原子力科学オリンピック日本代表として銅メダルと最優秀女性選手賞を受賞。
切磋琢磨できる仲間と共に、研究活動やコンテストに挑戦。
自分が最も力を発揮できる形で社会貢献をしていきたい。
― これまでどのようなことに取り組んでこられましたか?
私は「加速キッチン」※1に参加し、太陽フレアと宇宙線の関係を調べる研究や、宇宙線に関連する交流型イベントに携わってきました。また、大阪大学SEEDS※2プログラムでは、1年目にさまざまな分野の講義を受講する機会があり、幅広い分野の知識を学ぶとともに、レポート作成のスキル向上にも努めてきました。2年目以降は、加速キッチンの支援も受けながら、シンチレーター※3と汎用カメラを用いた放射線観測の研究を進めています。
こうした活動を通じて出会った仲間と共に、CERN※4が主催する高校生対象の国際素粒子実験コンテスト「Beamline for Schools」や、「動物実験代替法チャレンジコンテスト」※5にも挑戦しました。学校では出会えなかった仲間と、自分の関心分野で共に挑戦できたことは、とても貴重で楽しい経験となりました。
今年の秋には、私は日本の高校を休学し、海外のインターナショナルスクールに入学しました。将来は大学で物理学を専攻し、これまでに培った知識や経験を活かして、自分が最も力を発揮できる分野や職業を通じ、社会に貢献していきたいと考えています。
※1 加速キッチン:中高生の宇宙線や素粒子の探究活動を支援する教育団体。
※2 大阪大学SEEDS:大阪大学が提供する、文理の枠を超えた世界最先端の「知」にいち早く触れられる高校生向けプログラム。
※3 シンチレーター:放射線が当たると光を発する性質を持つ材料。放射線の存在や強度を測定する際に利用する。
※4 CERN:欧州原子核研究機構。世界最大級の素粒子物理学研究所。
※5 動物実験代替法チャレンジコンテスト:医薬品や化粧品などの化学物質の安全性評価において、脊椎動物を使わない新しい試験法を提案するコンテスト。
好きだと口にしたことを尊重し、
挑戦を後押ししてくれる環境が、自分の成長を支えてきた。
― 現在の研究や活動に取り組むきっかけは何でしたか?
私は、好きなことを徹底的に追究するタイプです。幼い頃から「なぜ?」という疑問を突き詰めることが好きで、サイエンス全般に強い興味を持っていました。その中でも宇宙の成り立ちに関心を抱くようになったきっかけは、小学校低学年の頃にスティーヴン・ホーキング博士の児童書を読んだことです。
こうした興味を背景に、これまでさまざまな科学イベントに参加してきました。生物観察や科学館でのジオサイエンス系イベントに加え、自宅近くの公民館で開かれる「表面張力を見てみよう」といった身近なテーマのイベントにも積極的に参加しました。幼い頃から科学に触れられる環境があったことは、私にとって大きな財産であり、これらの経験が現在の研究や活動へと自然につながっています。
― どのような家庭で育ちましたか?
両親は「好きなことがあれば、それを後押しする」という教育方針でした。イタリアのインターナショナルスクールへの入学も、親から「やってみたら」と背中を押されなければ、怖くて踏み出せなかったと思います。
最も印象に残っているのは、小学校入学直前のことです。私が何気なく「物理が好き」と言ったところ、気が付くと家に高校物理の本が置かれていました。「好き」と言えば、それを伸ばせる環境を整えてくれる。そんな家庭で育ちました。
― リーダーシップの経験はありますか?
幼稚園の頃は中心的な役割に挑戦できなかった経験があります。その反動もあり、小学校低学年の頃には特にリーダーシップを発揮したいという意識が強かったと感じています。小学校では学級委員長を務めることが多く、中学校では生徒会長を経験しました。さらに、動物実験代替法チャレンジコンテストでは、唯一の中学生として最年少でリーダーを務めました。
先輩や仲間の挑戦に刺激を受け、
日本をより深く理解するため海外に挑む決意をした。
― これまでの研究や活動の他に、成長のきっかけとなった出来事があれば教えてください。
私が受けたある全国模試では、成績上位者だけが参加できる決勝大会がありました。全国から集まった精鋭たちが一堂に会し、互いに競い合い、高め合う場です。私自身もこの大会に参加した際、「世の中にはこんなにもすごい人たちがいて、自分も努力すればこうした舞台に立てるのだ」ということを強く実感しました。
この経験は、私のマインドセットを大きく変え、「努力すればここまで到達できる」という自信につながりました。今でも、この気づきが挑戦を続ける力になっています。
― イタリアのインターナショナルスクールへの入学を決意した経緯を教えてください。
加速キッチンで出会った先輩の中に、同じ系列のインターナショナルスクールに進学された方がいました。私はその先輩と親しく、その姿を見て「私も行ってみたい」と思うようになりました。さらに、孫正義育英財団で出会った仲間たちが意欲的に挑戦する姿を目の当たりにし、「絶対に受けよう」という気持ちが一層強まりました。
私はこれまで海外の学校に通ったことも、長期で海外に滞在したこともありません。それでも挑戦しようと思ったのは、日本がとても好きだからです。海外に出ることで、「日本をより客観的に見て、さらに好きになりたい」という思いがあります。日本にいるだけでは分からないことがあると考え、中学生になる以前から、海外を経験してみたいと強く思っていました。そうした思いが、今の挑戦につながっています。
加えて、「自分の人生で一度、一歩踏み出す決断をしてみたい」という気持ちもあります。これまで進路や学校選びでは、常に安全策を取ってきました。「まあ、そう選ぶよね」という無難な選択ばかりだったと思います。だからこそ、異なる環境で自分を試し、挑戦したいという思いが、私の根底にあります。
挑戦の継続には「向上心」と「探究心」が何より欠かせず、
その上で「ストレスに耐える力」や「計画性」も重要。
― これまでの取組でうまくいかなかったことはありますか?
研究が行き詰まったときが、最も大変でした。当時は学校帰りに研究室へ通っていましたが、スケジュールは非常に厳しく、成果が出ないことが一層負担に感じられました。
私はやりたいことを次々と進めてしまう傾向があります。その結果、失敗や挫折とまでは言えないものの、スケジュールが過密になり、負担を感じることがあります。そうしたときには、指導してくださっている大学の先生にじっくり相談し、状況を整理するようにしてきました。
― 同世代の若者が世界で活躍していく上で、必要な能力・スキルや課題は何だと思いますか?
「向上心」と「探究心」が不可欠だと思います。これらは、私自身を動かす原動力であり、挑戦を続けるために欠かせないものだと感じています。
加えて、「ストレス耐性」も重要です。海外では文化の違いなどからストレスのかかる環境に置かれることがあります。挑戦を重ねる過程では、忙しくなったり、うまくいかない期間が長引いたり、体力的に厳しい状況に直面することもあります。そうした中でも自分を強く保ち、向上心や探究心を失わないためには、ストレスに耐える力が必要だと、自分や周囲の経験から強く感じています。
さらに、「計画力」も欠かせません。挑戦を成功させるためには、段取りをしっかり組むことが必要です。計画なくして目標達成は難しいというのは、私自身の経験から得た実感です。
課題については、海外進学や国際大会への出場などの舞台に立つために必要な「言語的ハードル」や「金銭的ハードル」に加え、海外や国際的な舞台に挑戦すること自体に不安を感じる人が多いという「心理的ハードル」があると考えています。
身近なロールモデルから直接得られる
リアルな経験や言葉が、挑戦への大きな力となる。
― 同世代の若者が世界を舞台に挑戦するに当たり、心理的なハードルを越えていくためにはどうすればよいとお考えですか?
心理的ハードルを越えるためには、ロールモデルの存在がとても重要だと考えています。しかし、ロールモデルがいても、それを「自分にもできること」として認識できないという問題があります。私自身、インターネットで海外大学に進学した人の記事を読んでも、その人は遠い世界の住人のように感じていました。ところが、これまでの活動で出会った身近な先輩の話を聞いた際、初めて「自分にも可能性がある」と思えたのです。
画面越しに見る経歴やライフヒストリーは、どうしても輝かしく映り、「自分には無理だ」と気後れしてしまいます。記事としてまとめられると、弱みや苦労の部分は見えにくいものです。だからこそ、実際に対面で話すことでしか伝わらないことや、直接受け取れるものがあるのだと思います。
― 若者に対し、どのようなサポートが必要と考えますか?
行政はさまざまなイベントや有意義なプログラムを実施していますが、その魅力が十分に伝わるよう、もっと広報を強化してほしいと思っています。特に小中学生を中心とした若年層に対しては、情報がほとんど届いていないと感じています。せっかくイベントがあっても、その情報が届かなければ参加の機会を逃してしまうのです。
加えて、「好きだ」と感じたことや、興味・関心を自由に追究できる環境が整っていることが望ましいと考えます。金銭的な面、環境的な面、そして人とのつながりというコネクションの面でも支援してくれる機関や仕組みがあれば、本当に心強いと思います。
― これまでのご自身を振り返ると、どのようなことを感じますか?
私自身、これまで偶然の積み重ねでここまで来ました。何が本当に最善の選択肢だったのかは、最終的には誰にも分からないのだと感じています。ただし、そうした不確実さがあるからこそ、挑戦すること自体に意味があるのだと思います。