野城菜帆さんが若者に伝えたいこと ―「他人の目ではなく、自分の気持ちに正直に」【インタビュー】

 本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。

 東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から野城菜帆さんへのインタビュー内容をご紹介します。

INTERVIEW
VIDEO

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野城菜帆さん
PROFILE

株式会社MizLinx 創業者 代表取締役CEO 野城 菜帆

 慶應義塾大学大学院在学中に株式会社MizLinxを起業。「未知の領域の探究を通して、持続可能で豊かな未来を実現する」というビジョンのもと、持続可能な海洋利用を実現するための海洋モニタリングシステムを開発。2023年東京都ベンチャー技術大賞「特別賞」及び「女性活躍推進知事特別賞」。2023年フォーブス誌日本版で「世界を変える30歳未満30人」に選出。

CAREER
 
 
1996年
生まれる
 
2015年
千葉県立千葉高等学校卒業
 
2016年
慶應義塾大学理工学部機械工学科入学
 
2020年
慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程入学
 
2021年
株式会社MizLinx 創業 代表取締役CEO
 
2022年
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了
 
2025年
東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程入学

 

海の中を「見える化」することで、
海の持つポテンシャルを最大限に活かせる社会を実現したい。

MizLinxの事業内容と今後の展望について教えてください。

 私たちは、海洋観測システムを開発しています。海には、産業や環境など、さまざまな課題が存在しています。また、海には大きなポテンシャルがあるにも関わらず、それが十分に活用されていないという現状もあります。その主な理由は、海の中の様子が見えず、正確に把握できていないことにあります。

 そこで私たちは、まず海中の状況を「見える化」することを目指しています。海の中で何が起きているのかを正しく理解することで、産業振興や環境保全、さらには海洋資源の活用といった、さまざまな課題の解決につなげることが可能になります。そのために、IoT技術やロボット技術を活用した海洋観測システムの開発を進めています。

 今後の展望としては、海に囲まれた日本の地理的特性を最大限に活かし、海を積極的に利用していくことが重要だと考えています。産業振興や経済発展はもちろんのこと、気候を司る海の保全にも力を入れ、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思っています。

 

海洋IoTブイ「MizLinx Monitor」水上通信ブイ

海洋IoTブイ「MizLinx Monitor」水上通信ブイ

海外の環境に揉まれたことで、人見知りな性格を克服。
高校では自分らしさを発揮し、リーダーシップを開花させた。

― どのような子供でしたか?

 とても人見知りな性格でした。しかし、親の転勤により海外で生活することになり、言葉も文化も異なる環境の中で、自らコミュニケーションを取らなければ居場所を築けないという状況に直面しました。その経験は、私にとって大きな転機となり、人と向き合う力を育むきっかけとなりました。

 それでも中学生の頃までは、率先して人前に立つような、いわゆるリーダータイプではありませんでした。学級委員などの役割に対しても、やりたくないと思っていました。一方、さまざまな人と仲良くなることは得意で、いろいろなタイプの友人がいました。

 

― 高校の部活動では、部長を経験されたということですが。

 高校では、バスケットボール部の部長を務めました。それができたのは、周囲に前向きな仲間が多く、良い刺激を受ける環境になったからだと思います。同じような価値観や志を持つ人たちが集まる環境で、のびのびとやりたいことや興味のあることに没頭できるようになりました。環境が変わり、リーダーシップを発揮しやすくなりました。

 

両親は、私が決めたことを信じて見守ってくれた。
友人の存在が、未知の世界への扉を開いてくれた。

― ご家族の教育方針やご自身への接し方、サポートはどうでしたか?

 両親からは、特別に何かを言われたことはなく、信じて自由にさせてくれていました。人並みに反抗期もあり、衝突することもありましたが、最後は見守ってくれて、進学先や自分がやりたいことについて反対されたことは一度もありませんでした。振り返ってみると、黙って自由にさせて見守るというのは、実はとても難しいことだと思います。それをしてくれたことは、私にとってとても大きかったです。

 

― 起業の際も同様でしたか?

 両親から反対されることはありませんでした。「一度企業に就職してから起業してもいいのでは?」といった軽いコメントはありましたが、反対はされませんでした。私自身、一度決めたことは簡単に引き下がらない性格なので、両親も最終的には受け入れてくれていたのだと思います。

 高校以降は、自分らしさを前面に出して行動するようになり、周囲からも「好きなことを好きなようにやっている人」として認識されていたように思います。何かに挑戦する際も、リスクを指摘されたり、否定的な意見を受けることはほとんどなく、むしろ応援してもらえることが多かったです。

 

― 影響を受けた人物はいますか?

 起業に関心を持つようになったきっかけは、友人たちの存在でした。特定の誰かから強い影響を受けたというよりも、「こういうこともできるんだ」と気づかせてくれる人との出会いが重なったことで、自然と意識が広がっていったのだと思います。

 バックパッカーとして世界を巡る旅も、もともとは友人に誘われたことがきっかけでしたが、次第に自分で旅を企画するようになりました。登山やダイビングも同様に、誰かに誘われて始めたものが、気づけば自分が主催する立場になっていました。人に誘われたらまずやってみる―そんなスタンスが、結果的に自分の行動範囲や挑戦の幅を広げてくれたと感じています。

 

短期留学で自身の志向を見極め、
バックパッカーの旅を通じて、生き抜く力と自信を培った。

― どのような経緯で海外留学をしたのですか?

 いつか海外に行ってみたいという思いは以前からありました。しかし、自分が本気で学びたいのか、単に海外に行きたいだけなのかがはっきりしなかったため、まずは大学2年生の時に短期留学しました。

 実際に留学してみると、苦労する場面もありました。英語には自信がありましたが、学術的な英語には慣れておらず、最初は戸惑いました。それでも後半には徐々に慣れ、楽しい時間を過ごすことができました。

 また、現地の大学院生と話す中で、多くの人が研究者や現地就職を目指していることを知りましたが、私自身はそこまでのイメージを持てませんでした。そして当時の自分は「研究者ではなく、実務家でありたい」ということが分かりました。この気づきを得られたことは、大きな収穫だったと思います。

 その他にも、留学を通じて得られたことは多くあります。特に英語力の向上と、外国の友人との関係づくりに慣れたことは大きな成果です。今でも、将来的には海外で働いてみたいという気持ちがあります。それは留学先で出会った優秀な学生たちの姿を見て、「いつかこういう人たちと一緒に仕事ができたらいいな」と思ったことがきっかけです。

 

― バックパッカーの経験は、ご自身にどのような影響を与えましたか?

 大学1年生から4年生までの間に、断続的に30か国ほどを旅しました。もともと好きだった海外旅行が、実際に訪れることでさらに魅力的に感じられるようになりました。

 格安航空券や安宿を利用し、シャワーが水しか出ないような環境もありましたが、そうした不便さも含めて楽しめました。私は困難な状況ほど面白く感じるタイプで、日本では味わえないようなワクワク感や、日々自分がたくましくなっていく感覚が好きです。

 バックパッカーとしての経験を通じて、「どこでも行ける。何でもできる。生きていける」という自信が身に付いたことは、大きな財産だと感じています。

 

戦略的に取り組んだ実践的な学びにより、
起業に役立つスキルや覚悟を習得。

― その他、成長のきっかけとなったエピソードがあれば教えてください。

 学生時代、営業、技術系、ベンチャーキャピタル(VC)の3分野で、企業の長期インターンシップを経験しました。

 まずは、大学1年生の時に営業職のインターンに取り組みました。将来は技術職に進もうと考えていましたが、あえて自分にとって最も遠い分野に挑戦してみようと思い営業を選びました。今振り返ると、技術者にも営業的な視点が求められる場面は多く、貴重な経験だったと感じています。インターン先には起業志向の学生が多く、実際に事業を立ち上げている人もいて、起業への関心を持つきっかけにもなりました。

 次に、大学3年生の時に参加した技術系のインターンでは、IoT事業に携わりました。実際にものづくりをした経験がほとんどなく、企業で実際に行われているものづくりに触れてみたいという思いから、研究室で本格的に取り組む前に、先んじてインターンに参加し、実務に近い経験を積むことにしました。インターンでは、プログラム作成やハンダ付け、3Dプリンタを用いた製作など、実践的なスキルを身に付けることができました。この経験は、現在取り組んでいる海洋分野のIoTにも活かされています。

 さらに、起業を決意した後、資金調達の知識を得たいと考え、大学院の修士課程在学中にVCのインターンを約1年間経験しました。新規案件の獲得のサポートや資料作成、数値分析などを担当し、現場で多くを学びました。学生でありながら、企業の皆様には、正規の社員と同じように接していただき、間違いがあればしっかりと指導してくださる環境の中で、スキルもマインドセットも鍛えていただきました。自分の力不足を痛感し、苦しい時期もありましたが、「これを乗り越えられないと起業はできない」と、がむしゃらに取り組みました。今振り返ると、未熟な私に対して真剣に向き合い、成長の機会を与えてくださったことに、深く感謝しています。

 

 

人々の暮らしに貢献したいという思いと、
技術的な挑戦を求める姿勢が、起業の原動力に。

― 起業の経緯について教えてください。

 物心ついた頃から宇宙飛行士に憧れており、小学校3年生の頃には「JAXAで働きたい」「宇宙の道に進みたい」と周囲に話していたほどです。そうした夢に加え、大学に入ってから「起業」という選択肢が新たに加わりました。起業に興味を持ち始めたのは大学2年生の頃で、実際に起業したのは修士課程2年目の時です。約4年かけてじっくりと考え、決断に至りました。最終的な後押しとなったのは、新型コロナウイルスの影響で時間的な余裕が生まれ、自分と向き合う機会が増えたことです。

 私はもともとロボティクスの研究出身で、修士課程までは宇宙関連のロボット開発に取り組んでいました。陸上や宇宙の分野は、防災や農業、GPSなど技術的なチャンスが多いと感じていましたが、私が携わっていた月惑星探査ロボットは、日々の暮らしとのつながりを実感しづらい部分がありました。

 そうした中で、「今、地球に住む私たちの生活に少しでも関わる仕事がしたい」という思いが芽生えました。挑戦的な分野が好きなこともあり、模索する中で、「海」というテーマにたどり着きました。海は技術的に非常に難しい領域でありながら、食生活や気候など、私たちの暮らしに密接に関わっています。こうしたことから、私にとっても社会にとっても身近で、かつ挑戦的な分野である、「海」をテーマに起業することを決めました。将来的には、宇宙の海にも挑戦してみたいという思いを持っています。

 

困難な経験を通じて、より成熟した人間へと成長。
「友情・努力・勝利」のもと、仲間の幸せを成功と捉える。

― 起業後の逆境体験について教えてください。

 起業当初、開発した機器が実験環境では問題なく動いていたにも関わらず、現場に持ち込んだ途端に動かなくなるという出来事がありました。その際にはご協力いただいた皆様にご迷惑をおかけしてしまい、自分自身も非常に苦しい日々を過ごしました。

 この経験から得た教訓は、基本的なことではありますが、「悪いことほど早く共有すること」です。一人で抱え込まず、起きた事実を素早く捉えて関係者に共有し、真正面から向き合い、チームで解決に向けて動くことで、状況を打開できることを実感しました。そして、自分が思っていることがすべてではないことを理解し、頼るべきときには人に頼ることも必要だと気づきました。

 当時はとても大変でしたが、乗り越えたことで自分の弱さを認められるようになり、他者の痛みにも共感できるようになりました。結果として、自分自身がこうありたいと思える人間に近づけたような感覚があります。

 

― 大事にしている言葉や座右の銘はありますか?

 週刊少年ジャンプの信条ではありませんが、「友情・努力・勝利」という言葉がとても好きです。私にとっての「友情」とは、社内の仲間だけでなく、お客様も含めて互いに支え合い、相手のために力を尽くせる関係性を築くことです。「努力」とは、困難な課題にも果敢に挑戦し、社会を前進させることです。「勝利」とは、やるからには成功させることを意味しています。

 そして私が考える「成功」とは、お客様を含む社内外の仲間が、私や私たちの会社と関わったことで「人生が良くなった」と感じてくださることです。例えば、お客様がサービスを通じて生活の質が向上したと実感してくださったり、社内の仲間が「この会社に入ってよかった」と思ってくれたりすることです。そうした人生の豊かさにつながるきっかけを提供できたなら、それこそが私にとっての成功だと考えています。

 

リーダーの第一歩は、自分に合ったリーダーシップを描き、
仲間が集まってくる人間になること。

― グローバルリーダーに必要な能力・スキルは何だとお考えですか?

 まずはマインドだと思っています。根本的なリーダーシップこそが最も重要であり、それは単にビジョンや目標を掲げる力だけではありません。「自分がどのような人間でありたいか」「どのような仲間と共に歩みたいか」といった、自分に合ったリーダーシップを見つけることから始まるものだと考えています。

 その上で、それを支える粘り強さや柔軟性、謙虚さも必要となりますが、能力は後からついてくるものだと思います。それは、自分が能力を身に付けるという意味だけでなく、必要な能力を持った人たちが集まってくるということでもあります。だからこそ、まずはさまざまな人が付いていきたいと思える人間になることが重要だと感じています。

 私の場合、こうしたマインドは、部活動や自ら企画してやり切った経験によって伸ばしてきました。例えば、キャンピングカーでのアメリカ横断を自分で企画し、仲間を集めて実行しました。道中にはトラブルもありましたが、それを乗り越えて成功させることができました。小さな達成かもしれませんが、こうした成功体験を積み重ねることが、リーダーとしてのマインドの醸成につながったと思います。

 

アメリカ・ニューメキシコ州ホワイトサンズ国定公園での野城菜帆さん

アメリカ・ニューメキシコ州ホワイトサンズ国定公園にて
 

情報と機会の提供が、若者の挑戦を後押しする。
自分に正直になり、好きなことに思い切って挑戦してほしい。

― 若者に対し、どのようなサポートが必要と考えますか?

 私は公立高校の出身ですが、大学に進学すると私立の中高一貫校出身の学生が多く、既に中高生の段階で留学や企業インターンを経験している人もいました。そうした環境の違いから、自分の出身校と比べ、機会や情報に大きな格差があることを実感しました。特に情報格差は、早期からの準備や選択肢の広がりに関わってきます。学校からの情報だけでなく、親や友人などのネットワークを通じた横や斜めからの情報も重要です。

 より早い段階で国際交流の機会があればよかったと思います。特に学校が提供するプログラムであれば、参加のハードルは下がると思います。小中高のうちにグローバルな経験を積むことで、その後の意識や行動にも大きな変化が生まれます。可能であれば、小学生の頃からそうした体験ができる機会があると理想的です。

 そして、最も重要だと感じているのは経済的な支援です。挑戦には資金が必要であり、経済的な理由で機会を諦めざるを得ない若者も少なくありません。親の収入に左右されることなく、本人の目的や意志に基づいて給付される支援があれば、若者はより自由に、自立した挑戦ができるようになるはずです。

 

― 若者へのメッセージをお願いします。

 私が若い世代の課題として感じているのは、「自分に正直になれないこと」です。自分の好きなことや、やりたいことのシグナルに素直に向き合えず、他人の目や評価を気にして、他人が喜ぶ「正解」を追い求めすぎているように思います。

 日本は挑戦しようと思えばできる恵まれた環境にあります。失敗してもリスクは限定的で、再び挑戦することもできます。だからこそ、ぜひ自分の気持ちに正直になって、やりたいことを言葉にし、思い切って挑戦してほしいです。皆さん一人ひとりの挑戦が、将来の日本を支える力になると信じています。

 
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