澤畠里多さん ―自分の関心を追いかけることが、次の挑戦につながる大事な一歩に【ヒアリング】
本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。
東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から澤畠里多さんへのヒアリング内容をご紹介します。
米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校 澤畠 里多
高校時代に東京都の「次世代リーダー育成道場」※1で留学を経験。また、人にも環境にもやさしい服作りに取り組む学生団体「やさしいせいふく」で活動。2025年、柳井正財団海外奨学金プログラムに第9期生として採用され、2025年に米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校に進学。
※1 次世代リーダー育成道場:国内事前研修でさまざまなことを学び、その成果をもって留学にチャレンジする都立高校生等を支援するプログラム。
米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校入学
「できる自分がなぜ行動しないのか」という問いが原動力。
将来は多文化共生社会の実現に貢献したい。
― 大学で学びたい内容と、今後取り組みたい挑戦について教えてください。
私はラテンアメリカ研究と政治学を専攻し、学びをさらに深めたいと考えています。幼少期は米軍横田基地の近くで育ち、日系人やペルー出身の方々との交流が身近にありました。また、親族が暮らす神奈川県の工業地帯にも日系人が多く、そうした環境の中でラテンアメリカへの関心を自然と抱くようになりました。
ラテンアメリカは、先住民や宗主国の人々、奴隷の立場で移住させられた人々など、多様な文化が交錯してきた歴史を持ち、世界でも特に多文化共生が進んでいる地域です。だからこそ、その複雑な歴史や社会構造について深く学びたいと考えています。これらの分野を専門的に学べる環境は国内では限られているため、より高度な研究機会を求めて海外大学への進学を決意しました。
私が生まれ育った地域では、外国人向けの教育や言語面での支援は既に進んでいます。しかし、生活や文化といったより深いレベルでの共生には、今も課題が残されています。こうした課題は日本に限らず世界各地で見られるため、各国でどのような政策が試みられているのかを学び、将来的にはその実践に携わることで社会に貢献したいと考えています。
― ご自身の行動や成長を支える原動力について教えてください。
他者の考えに寄り添えることが、私の強みだと思います。姉が生まれつきダウン症候群であったことから、幼い頃より特別支援学校や姉の職場などで、特別な支援を必要とする方々と接する機会が多くありました。
こうした経験と姉の存在は、私の人生において非常に大きな意味を持っています。挑戦したくてもできない人がいる現実を知り、「できる自分がなぜ行動しないのか」という問いが、これまでの私を突き動かす原動力となってきました。
常に私の選択を尊重してくれた両親に感謝。
留学先では、文化や価値観の壁を対話によって突破した。
― これまでどのような学校生活を過ごしてきましたか?
私はこれまで好きなことに集中して取り組んできました。部活動ではバレーボール部に所属し、練習に打ち込んできました。また、世界史や政治経済、英語といった科目が好きで、継続して学んできたことは課外活動や大学受験にも大いに役立ちました。
幼い頃から、両親には「したいことを何でもしていい」と言われて育ちました。世の中には、自身の成功体験を子供に押し付ける親もいるかもしれません。しかし、私の両親はそうした価値観を持たず、「私たちは何者でもないから」と常に私の選択を尊重してくれました。
興味を持てない分野には十分な時間を割けず、少し後悔している部分もあります。ただし、両親のこうした考え方のもとで好きなことに力を注いできた経験は、私にとって大切な財産になっています。
― 高校時代の留学経験について教えてください。
東京都の「次世代リーダー育成道場」に参加し、約10か月間アメリカ・イリノイ州に留学しました。この経験がきっかけとなり、海外の大学に進学することを考えるようになりました。
イリノイ州での生活では、宗教に対する考え方の違いが特に印象的でした。私自身、それまで宗教に深く関わる機会がほとんどなかったため、ホストファミリーや現地の友人との間で意見が対立する場面もありました。例えば、教会への参加や寄付について議論になることもありましたが、その際には自分の宗教観や立場を丁寧に説明し、少しずつ理解してもらうことができました。
こうした経験を通じて、たとえ意見の対立があっても、それを乗り越える「突破力」を身に付けることができたと感じています。この「突破力」という言葉は、以前の校長先生がよく口にされていた言葉で、今でも私の中に強く残っています。
学校からの手厚いサポートや先輩の存在が支えに。
仲間同士でつながれるコミュニティがあれば心強い。
― 海外大学への進学を目指す中で、苦労したことはありますか?
学業面でも多くの課題や悩みがありましたが、それ以上に心理的な不安が大きかったと感じています。私は日本の大学を併願せず、海外大学への進学に絞って受験準備を進めていました。しかし、通っていた学校では海外大学を目指す生徒がほとんどおらず、受験期には友人たちと自分の学習状況や取組が大きく異なっていました。そのため、「本当に自分の進んでいる道は正しいのか」と不安を抱えることが多くありました。
そうした中で、学校の先生方には本当に多くのサポートをいただきました。担任の先生には推薦状を書いていただき、ALTの先生にもさまざまな場面で助けていただきました。また、世界史の先生からは、ご自身の豊富な旅の経験に基づいたお話を伺い、大きな励みになりました。
受験期には不安を感じることもありましたが、今振り返ると、自分が信じた進路を貫いたことは間違いではなかったと感じています。
― 海外大学への進学に必要な情報はどのように集めましたか?
海外大学への進学に必要な情報は、二学年上の先輩から伺った内容が非常に参考になりました。最近では、後輩から「海外大学進学についてお話を聞かせていただけませんか」と声をかけられることもあります。母校から世界に飛び立とうとしている後輩がいるなら、ぜひ応援したいと考えています。
私が奨学生として参加している柳井正財団のコミュニティは、海外大学に進学する多様な仲間との交流を通じて安心感や刺激を得られる貴重な場ではありますが、普通科の公立高校出身者とのつながりもより強くしていきたいと思っています。都立高校から海外大学に進学している学生は他にもいるはずなので、そうした仲間同士でつながれるコミュニティがあれば、とても心強いと感じています。
相手が置かれた環境に思いを馳せる大切さ。
大人が子供に信頼を寄せる姿勢が「自発性」を育む。
― 学生団体「やさしいせいふく」では、どのような活動をしていましたか?
高校2年生の時、「総合的な探究の時間」の授業を通じて古着に関心を持つようになりました。その過程で、オーガニックコットンの推奨やサステナブルなファッションをテーマに、小中学校で講座を開く活動を行っている学生団体「やさしいせいふく」を知り、ファッションに関わる社会課題に直接取り組んでみたいと考えて参加しました。
「やさしいせいふく」の活動では、インドを訪れ、綿農家や工場で働く方々にインタビューを行い、ドキュメンタリー映画を制作・発信しました。その中で、現地で環境改善に取り組むNPOの方々ともお話しする機会がありましたが、日本とインドでは社会的理念や教育、前提となる情報が大きく異なるため、外部の者が容易に介入できないという現実を知りました。
この経験を通じて、「たとえ自分たちが間違っていると感じる文化や慣習であっても、もし自分が同じ環境に生まれていたら同じ価値観を持っていたかもしれない」という気づきを得ました。それ以来、「自分の尺度だけで他者を批判することはできない」と強く思うようになりました。
― 世界で活躍するために必要な能力・スキルは何だとお考えですか?
私が「やさしいせいふく」に参加した際も、自分で調べ、主体的に行動することで活動に加わりました。その経験からも、「自発性」は非常に重要だと考えています。どれほど強い思いがあっても、行動や発言に移さなければ、その思いは存在しないのと同じだと感じています。
そして、この自発性を育むためには、大人が子供たちに対して信頼を寄せる姿勢が欠かせないと思います。私の周囲には、親から厳しいルールを課されていた友人もいましたが、そうした場合、高校生になると反発してしまうことがありました。親や大人が子供に過度な制約を与えるよりも、子供を信頼し、一人の人格として尊重する方が、子供の自発性を伸ばすために大切だと考えています。
海外体験は問題意識の醸成や挑戦への意欲につながる。
中高生の皆さんには、自分の好きなことを究めてほしい。
― 今の日本の若者が抱える課題は何だと思いますか?
今の日本は、問題解決に向けて主体的に動きにくい環境にあると感じています。私自身は、親の理解もあり、やりたいことを自由に選べる環境で育ちました。しかし周囲を見渡すと、「やらされている」と感じながら取り組んでいる人が多い印象があります。例えば、「総合的な探究の時間」の授業で探究テーマを決める際も、「調べたいことがない」「興味が何もない」と話す生徒が少なくありませんでした。大学進学といった大きな進路選択でさえも、自分の意思で決めている人は多くないように思えます。
その背景には、日本が島国であるため外部からの刺激が少なく、多様な人と出会う機会が限られていることも一因としてあるのではないかと考えています。日常生活が非常に平和であること自体は良いことですが、その分、課題意識を持ちにくい環境でもあります。
もっと多くの人が自分の興味や関心を追究できるようになれば、問題解決に向かう意欲も自然と高まるのではないかと考えています。
― 若者に対し、どのようなサポートが必要と考えますか?
私の通っていた学校では、修学旅行の行き先が海外でした。他の都立高校では、海外への修学旅行はあまり一般的ではないと聞きますが、修学旅行で海外に行ったことが進路や価値観に大きな影響を与えたという話をよく耳にします。実際に海外を体験することで視野が広がり、挑戦への意欲につながると思うので、こうした機会がもっと増えることが大切だと考えています。
― 同世代の若者や後輩へのメッセージをお願いします。
中高生の皆さんには、自分の好きなことを究めてほしいと思います。私自身も、自由にさせてもらっていたことがきっかけで、好きなことが次々と見つかりました。自分の関心を追いかけることが、次の挑戦につながる大事な一歩になると感じています。