三菱商事株式会社 ―若者には好きな事や与えられた事に一生懸命挑戦してほしい 【ヒアリング】
本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。
東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から三菱商事株式会社を対象としたヒアリング内容をご紹介します。
左から金田氏、湯澤氏、喜早氏
業種
卸売業
本社所在地
東京都千代田区
創業年/設立年
1954年
事業内容
全世界に約120の拠点を持つ総合商社で、国内外取引や事業投資、情報・技術・金融・物流等のサービス提供を通じて多様なステークホルダーの価値創造に取り組む。
企業規模
(単体) 4,477名
(連結) 62,062名 ※2025年3月31日時点
平均年齢
42.4歳 ※2025年3月31日時点
全社拠点数
国内:11拠点
海外:103拠点 ※2025年11月1日時点
創業以来の企業理念「三綱領」に基づき、
事業活動を通じて三つの価値の同時実現を追求する。
― 貴社の事業概要や理念についてお聞かせください。
当社は、全世界に約120の拠点を持ち、幅広い事業を展開する総合商社です。地球環境エネルギー、マテリアルソリューション、金属資源、社会インフラ、モビリティ、食品産業、S.L.C.※1、電力ソリューションの八つの営業グループを軸に、資源開発から製造、流通、サービスまで幅広く手掛けています。単なる商取引にとどまらず、事業投資や経営参画を通じてバリューチェーン全体に関与し、再生可能エネルギーやデジタルソリューションなどの成長分野にも積極的に取り組んでいます。
創業以来受け継がれてきた企業理念「三綱領」は、社会に貢献する「所期奉公」、誠実と透明性を重んじる「処事光明」、世界を舞台に持続的成長を目指す「立業貿易」という三つの精神から成り立ち、すべての事業活動の根幹を成す不変の理念です。
当社は、常にこの理念に立ち返りながら、事業活動を通じて「経済価値」「社会価値」「環境価値」の同時実現を目指しています。単に収益を追求するだけでなく、環境への配慮や社会に求められる価値を同時に追求することは、決して容易ではありません。しかし、だからこそ挑戦する意義があると考えています。当社は、そのような高い理想を掲げ、果敢に挑戦し続ける企業です。
※1 S.L.C.:C2B事業とB2B事業を有機的に連携させ、Smart-Lifeの創造に取り組む。
― 理念を実現するために、貴社が大切にしている姿勢について教えてください。
当社は、物や技術、工場を持たず、「人」こそが唯一の資源です。すべては「人ありき」であり、三つの価値の同時実現という高い理想も「人」の力にかかっています。歴代社長の言葉を振り返ると、必ず「人が最大の資産」と述べています。これは単なるスローガンではなく、これまでの当社の歴史の中で積み重ねられてきた確かな信念であり、今も重みを持って受け継がれています。私たちは、この「人材は最大の資産であり、価値創出の源泉である」という創業以来の信念を大切にし、人への投資を続けてきました。
経営マインドを持ち、事業価値向上にコミットできる人材。
それには「高い志」「構想力」「実行力」「倫理観」が必要。
― 貴社が求める人材像についてお聞かせください。
当社は求める人材像を「経営マインドを持ち、事業価値向上にコミットできる人材」と定義しています。社員には、たとえ経営層でなくとも経営的な視点を持ち、事業の価値を高める姿勢を求めています。新たな事業価値を創出し、自ら機会を見出して積極的に成長していく意識が重要です。
この人材像を構成する要素として重視しているのは、「高い志」「構想力」「実行力」「倫理観」の四つです。社会課題の解決に向けた志を持ち、変化を見通し、創意工夫の上戦略を練る構想力を発揮し、困難を乗り越える、周囲を動かす実行力を備えること。そして、企業理念「三綱領」に基づく高い倫理観を持つことを求めています。
― 貴社の人材開発の取組について教えてください。
当社では、社員の人材開発を「現場のプロ育成」「経営実践」「経営人材活用」の三つの成長フェーズに分けています。一つ目の「現場のプロ育成」では、事業会社を含めた現場での経験を通じ専門性を磨きます。二つ目の「経営実践」では、人や組織・プロジェクトを牽引する業務経験を積み、組織で成果を出せる人材への成長を促し、三つ目の「経営人材活用」では、経営人材として分野を超えて、企業価値向上に貢献します。
また、こうした現場での経験付与の補完要素として、当社では各人のキャリアステージやニーズに基づいた多様で充実した座学も含めた研修機会を提供しています。
さらに、社員の自立的成長を後押しするための仕組みとして、「Career Choice制度」と「Dual Career制度」を導入しています。「Career Choice制度」は、社員が希望する組織への異動を促す社内公募型の仕組みです。「Dual Career制度」は、現部署に在籍しながら他部署の業務を兼務できる制度であり、業務時間の最大15%を充てることが可能です。
経営人材として活躍するため、まずは現場のプロに。
当社では、社員全員に海外での経験機会を提供。
― 社員への多様な経験機会の提供について、どのような経験を提供しているのかお聞かせください。
社員に多様な経験機会を提供するため、入社後は社内外のステークホルダーと直接対面し業務上必要な専門性を取得できるよう、各営業グループが策定するキャリアディベロップメントプログラム(CDP)※2に基づき異動やローテーションを実施しています。さらに、入社8年目までに全社員が半年から1年程度の海外経験を得ることを目指しています。「経営実践」ステージでは、組織やプロジェクトをリードする立場を経験することで、より幅広い経験を積む機会を提供しています。こうした経験を通じて、早期に現場のプロフェッショナルとして成長し、将来的には分野の垣根を越えて経営人材として活躍できる基盤を築くことを期待しています。
また当社では、ビジネススクール派遣制度を設けています。「人が最大の資産」という信念をもとに、創業直後より海外語学研修生を派遣し、昭和45年にはこの海外ビジネススクール派遣制度を開始するなど、当社は早くから人材への投資を惜しまず、さまざまな機会の提供を重視してきました。
※2 CDP:社員が自らのキャリアを主体的に設計し、必要なスキルや経験を計画的に身に付けることを支援する制度。
― 海外を経験させる理由について教えてください。
社員を海外に派遣する第一の目的は、現地で事業を展開し、価値を創出することにあります。ただし人事部門としては、異文化環境での組織運営や事業推進を経験し、その過程で生じる困難を乗り越えることで、大きく成長してほしいという思いがあります。
実際、人事部門でこれまでのキャリアを分析したところ、多くの社員が海外での組織マネジメントや新規ビジネスの立上げといった経験を積んできたことが分かりました。こうした経験は人材育成において非常に重要であり、今後はこれらの機会をより計画的に提供していくことを検討しています。
10年後を見据えた人材ビジョン「DEAR」。
その第一歩が、多彩・多才な人材(Diversity)。
― 人材マネジメントの取組状況についてお聞かせください。
人事領域を取り巻く環境は近年大きく変化しています。働き手の価値観の変化や労働人口の減少は顕著であり、今後も確実に進行していくと考えられます。他の国内企業と同様、当社においてもトップヘビーな人員構成(ベテランや管理職の人材が多く、若手や中堅層が相対的に少ない状態)が課題となっており、今後10年で人材の入れ替わりが急速に進むことが予想されます。このままでは変化への対応が難しくなる可能性があります。
そこで当社は、外部・内部環境の変化に的確に対応するため、10年後を見据えた人材ビジョン「DEAR」を策定しました。この「親愛なる」を意味する言葉には、当社の根底にある「人を大切にする」という想いが込められています。
― 貴社の人材ビジョン「DEAR」について教えてください。
「DEAR」は、「多彩・多才な人材(Diversity)」「活かす(Energize)」「育てる(Accelerate)」「報いる(Reward)」の頭文字から構成されており、今後の人材マネジメントにおける重要な要素として位置づけています。中でも「多彩・多才な人材」を最も重視し、その概念を基盤に据えています。
一人ひとりが異なる才能や経験を持つことを端的に表した言葉が、「多彩・多才な人材」です。当社はこれまでも多様な人材が集まる組織でしたが、今後はその幅をさらに広げ、多様性を一層確保していく方針を明確にしました。そして、多様な人材が最大限に力を発揮できる環境を整え、継続的な投資・育成を行うとともに、成果を上げた人材にはきちんと報いることを掲げています。
多様化が進む時代のリーダーに必要なのは、
内省を通じて変化に適応し行動を変えていく力。
― 「多彩・多才な人材」を重視する理由について教えてください。
当社が「多彩・多才な人材」を重視するのは、事業環境の変化に適応するためです。当社は海外売上比率が高く、世界各地で事業を展開していますが、意思決定層は日本人が中心で、日本的な企業文化も色濃く残っています。こうした状況を維持したまま変化に対応し続けることには限界があり、さまざまな視点や多様な価値観を取り入れる必要があると考えています。
加えて、当社のビジネスモデルは従来の商取引から事業投資、そして「事業経営」へと進化してきました。収益源はグローバル化し、三菱商事単体だけでなく連結グループ全体での経営が求められています。そのため、単体社員のみならず連結先企業の人材も含め、幅広い人材の活躍が不可欠です。従来の比較的均質な社員像を前提としたマネジメントから脱却し、当社自身が多様化を進める必要性が高まっています。
― 多様化が進む時代に、必要な能力・スキルは何ですか?
事業の状況や部下の特性に応じたリーダーシップを実践することの重要性が高まっています。事業内容や社員の価値観の多様化に伴い、指示したり率先して行動するなどのスタイルだけでなく、ビジョンの提示や積極的に傾聴する姿勢など、複数のリーダーシップスタイルを状況に応じて柔軟に使い分けることが求められています。今後のリーダーに不可欠なのは、「変化に適応し行動を変える力」、すなわち「行動変容」です。
この「行動変容」を実現するためには、自身の経験を振り返り、必要な変化を主体的に考える内省が欠かせません。当社で活躍してきた社員やアルムナイを分析すると、「課題を柔軟に受け入れ、内省を通じて自らを変化させてきた」ことが成長の共通要因であることが分かっています。
当社は従来からビジネスモデルの変化を前提に事業を展開してきました。近年はAIを含む技術革新や社会情勢の変化が加速し、ビジネスサイクルも短期化しています。こうした環境では「役割や自身を柔軟に変える力」と「必要な変化を内省で見出す力」が、これまで以上に求められます。
世界で活躍する鍵は、高い英語スキルではなく、「突破力」。
物事に真摯に向き合い、学び続け、やり抜く姿勢が大切。
― 貴社の人材開発や人材マネジメントにおいて、その他に特に重視されている点があれば教えてください。
当社は先日、全体方針として「経営戦略2027」を掲げ、長期的な目標達成に向けて「Enhance(磨く)×Reshape(変革する)×Create(創る)」という好循環モデルを提示しました。このモデルは、まず既存事業をさらに良くするEnhance、次に事業の進め方や組み合わせを時代に合わせて見直すReshape、そして新しい事業の芽を育てるCreateの三つのアプローチから構成されています。これらを組み合わせることで、事業全体をより強く、そしてバランスの取れた形へと整えていくことを目指しています。
この好循環モデルを実現する上で、人事部門として重要なキーワードと位置づけているのが「挑戦」です。当社では、これまでも情熱と挑戦の姿勢を「アドベンチャー・スピリット」と表現してきました。今後もこの精神を踏まえ、社員が挑戦を通じて成長できる環境を一層強化していきたいと考えています。
― グローバルで活躍する社員の中でも、ひときわ力を発揮しているのはどのような方でしょうか?
当社では、英語が得意ではなかったり、入社時に海外経験がなかったりしても、海外で活躍している社員が数多くいます。例えば、ある社員は海外経験がない状態で入社しましたが、誰とでも円滑にコミュニケーションを取り、目標達成に向けて周囲を巻き込みながら前進できる人物でした。さまざまなタイプの上司から柔軟に学び、着実に成長を重ねることで、海外で活躍する人材へと成長しました。
このように、どのような環境でも事業や業務に真摯に向き合い、困難に直面しても自ら能動的に学び一つ一つの仕事をやり抜く姿勢が当社の人材らしさなのではないかと感じています。
物事を深く掘り下げ、自ら考え抜いてやり遂げる経験を。
困難を乗り越え挑戦を楽しむ姿勢が、成長を導く。
― 若手社員について、感じている変化や特徴はありますか?
まず、当社への入社志望動機に変化が見られます。従来は「グローバルに活躍したい」「大きな仕事に挑戦したい」といった理由が中心でしたが、近年は社会課題への関心も高まっています。当社は以前から社会課題の解決に取り組んできましたが、学生自身が問題意識を持ち、その解決を志して当社を選ぶケースが増えていると感じています。
また、働くことのモチベーションも大きく多様化しています。かつては昇進や社会的ステータス、キャリアの成功が主な動機でした。しかし若手社員に目を向けると、それらに加えて、「社会にプラスの価値を生み出したい」、「企業に所属しながら自分の好きなことを追求したい」など、目指す方向性が広がっています。こうした背景から、個々の社員の意欲を高め、潜在能力を最大限に引き出すためのマネジメントは、従来以上に難易度が高まっていると感じています。
― 若者について、課題や不足していると感じる点はありますか?
採用活動を通じて学生を見ていると、非常に優秀だと感じます。学生時代からさまざまなことを考え、インターンシップやアルバイトなどに積極的に取り組み、多様な経験を積んでいます。また、AIをはじめとするデジタルツールの普及により、若者は情報収集や処理に慣れ、技術的スキルを身に付けています。
一方で、情報収集や処理が容易になったことで表面的な対応は可能になりましたが、物事を深く掘り下げ、自ら考え抜いてやり遂げる経験は従来より得にくくなっていると感じています。アルバイトや部活動、趣味など、取り組む対象は問いません。重要なのは、物事に真剣に向き合い、深く関わることです。その過程では困難に直面することもありますが、そうした困難を乗り越える経験を通じて挑戦の面白さを知り、課題に柔軟に向き合える姿勢が育まれれば、大きな成長につながると考えています。
若者には、キャリアパスを最初から無理に描くよりも
好きな事や与えられた事に一生懸命挑戦してほしい。
― 若者に対し、どのようなサポートが必要だと考えますか?
若いうちからキャリア教育を行うことは、非常に重要だと考えています。働くとは何か、どんな仕事があるのか、なぜ働くのか、自分は何をしているときが楽しいのか―そうしたことを、中学生や高校生の段階で知る・考える機会があることは、学業・課外活動の意味付けにもつながり大変意義深いと思います。また、学生がさまざまな経験を積める場を提供することも欠かせません。例えば、海外に行く機会を設けて視野を広げる体験を促すことは、とても有意義だと感じています。
一方で、企業がこうした取組を行うと、「採用目的ではないか」と受け取られてしまうことがあります。そのため、より行政機関や大学などの公的機関が主体となって、企業と連携することが望ましいと考えています。
― 若者に期待することやメッセージをお願いします。
(湯澤氏)
目の前の物事に全力で取り組むことが何より大切です。キャリアパスを最初から無理に描く必要はありません。特に若い方には、今後のキャリアが描けなくても、まずは自分が好きなことや与えられた業務に一生懸命挑戦してほしいと思います。その経験の積み重ねがその後のキャリアにつながります。
私自身、社会人になって20年近くが経ちますが、振り返ると当時は面白さや意義が分からなかった仕事も、今では「やっていて良かった」と感じることが多くあります。過去の経験が現在の業務につながり、答え合わせをするように実感できる場面が増えました。もしその時に手を抜いていればこうしたつながりは生まれなかったはずです。全力で取り組んだからこそ、その成功や失敗の経験の積み重ねが今のキャリアにつながっていると確信しています。
目の前の物事に全力で取り組み、
自らの行動を振り返り、次の行動につなげてほしい。
― 若者に期待することやメッセージをお願いします。
(喜早氏)
当社では、社員のキャリアステージの第一段階として「現場のプロ育成」を掲げています。個々人によって、また個別の事業によっていわゆる「一人前」となるまでに要する時間は違ってくると思いますが、すべての事業に共通して言えることは、まず特定分野で自分のキャリアの「幹」となる専門性を確立し、「プロ」になることが重要、ということだと思います。
入社前から「この分野でこうなりたい」という理想を掲げつつも、まずは与えられた持ち場で目の前の物事に全力で取り組み、「幹」を形成することで自ずと望むような道や、若しくは思いもよらない新しい道が見え、自分らしいキャリアが形成できるのではないかと考えています。
(金田氏)
「目の前の仕事に全力で取り組むこと」と「多様な経験機会の提供」という当社の方針は、一見矛盾するように見えるかもしれませんが、実は深くつながっています。まず大切なのは、基礎をしっかり固め、目の前の仕事に真摯に向き合うこと。そして私たちのデータ分析からも見えてきたのは、成長し続けている人には共通点があるということです。それは、全力で取り組むだけでなく、その経験を振り返り、自分なりの教訓として次に活かす力、「リフレクション能力」や「内省力」が高いという点です。
一生懸命取り組んだ後に、「成功も失敗も含めて振り返って次の行動につなげる」というサイクルが非常に重要だと考えており、私自身もそういった姿勢を大切にしていきたいと思っております。