株式会社マザーハウス ―自分とは異なる世界に飛び込み、新しい価値観に出会ってほしい【ヒアリング】

 本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。

 東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から株式会社マザーハウスを対象としたヒアリング内容をご紹介します。

INTERVIEW
株式会社マザーハウス
取締役COO兼CFO 王 宏平

 

株式会社マザーハウスのロゴ

 

取締役COO兼CFO 王 宏平さん

 
 

OVERVIEW

業種

小売業

本社所在地

東京都台東区

創業年/設立年

2006年

事業内容

発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・ 生産・品質指導、同商品の先進国における販売

企業規模

411人 ※2026年1月時点

平均年齢

33.4歳

全社拠点数

(生産国)
バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカ、 インド、ミャンマー
(販売国)
日本、台湾、シンガポール ※約60店舗を展開
2025年7月、新たに米国でECサイトをオープン

 

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に、
途上国の固定観念を打ち破り、可能性を広げていく。

貴社の事業概要についてお聞かせください。

 当社は「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、 ファッションアイテムの企画から製造、販売までを一貫して手掛けています。 主力はレザー製のバッグや革小物ですが、洋服やジュエリー、さらに近年はチョコレートなど、取り扱うプロダクトの幅を広げています。多様な商品を 生み出すことで、途上国の潜在的な可能性を引き出し、世界へ届けてい くことに挑戦しているブランドです。

 ものづくりはバングラデシュをはじめとする六つの途上国で行い、日本へ輸入しています。国内では小売業として約50店舗を展開し、オンライン販売も行っていますが、基本的にはお客様に直接届けることを大切にしています。また、「世界に通用するブランド」を掲げている以上、海外展開にも積極的で、現在は台湾に5店舗、シンガポールに3店舗を運営してい ます。2025年7月から新たにアメリカでのオンライン販売を開始し、グローバルな市場開拓を進めています。

 

企業理念について詳しく教えてください。

 途上国でのものづくりと聞くと、「品質は良くなってきたが、安価な労働力を求めて現地で生産しているのだろう」といったイメージを持つ人が多いのではないかと思います。一方で、「メイド・イン・ニューヨーク」と書かれた製品を見ると、多くの人が自然とお洒落という印象を抱くはずです。このときに生まれるワクワク感と、「メイド・イン・バングラデシュ」を見たときの心の動かなさ―そのギャップをなくしたいという思いがあります。

 「バングラデシュ製といえば、こういう良いものがあるよね」「かっこいいよね」と言ってもらえるようにしたい。「途上国だから安い労働力でそこそこのものを作っている」という固定観念を壊したい。これこそが、私たちの理念の中心にある想いです。

 そのために、当社では素材開発から製造、販売に至るまで、サプライチェーンのすべてを自社で担っています。想いを込めて作り、その想いを最後まで責任を持って届ける―その一貫性を大切にしているからです。

 

世界で活躍するためには、自らの原体験や価値観を理解し、
それらを仕事と結びつけることが大切。

世界で活躍する人材に必要な要素について、貴社ではどのように捉えていますか?

 「世界で活躍する」という言葉は非常に幅広く、定義も人によって異なりますので、ここでは私たちの考え方としてお話しします。世界で活躍する上で、英語は「入口」にはなっても、勝負を決める要素ではありません。私たちが重視しているのは、自分の原体験や問題意識、価値観を深く理解し、その中心軸と仕事を結び付けられるかどうかです。

 当社では、どの社員も「なぜマザーハウスに入社したのか」と問われれば、自分なりのストーリーを語ることができます。「なぜこの会社で働くのか」「ここでどのような仕事をしていきたいのか」という問いに対して、自分自身が納得できる答えを持つことが非常に重要だと考えています。さらに、その価値観や想いがどのような経験から形成されてきたのかを理解していることも大切です。

 当社の場合、途上国に強い関心があるかどうかは必須ではありません。例えば、自身が何らかのマイノリティとして育ち、「途上国というマイノリティの可能性を信じたい」という想いに共感して入社した社員もいます。また、金融業界で営業を続ける中で「もっと自信を持って勧められるものを売りたい」と考え、転職してきた社員もいます。こうした原体験から生まれた価値観と、ここで働く理由がしっかりと結びついていること―それこそが、私たちが最も大切にしている点です。
 

マザーハウスの工場で作業を行う代表取締役の山口絵里子さんとサンプルマスターのモルシェドさん

 

「ビジネスを創る力」と歴史や文化を理解する「教養」が
グローバルな舞台で必要となる。

― 世界で活躍するために必要な能力・スキルは何だとお考えですか?

 まず重要なのは、本当の意味で「ビジネスを創る力」です。単に売上をつくるだけでなく、利益やキャッシュフローを確保し、それを投資につなげて事業を循環させる仕組みを構築すること。特に在庫を持つビジネスでは、在庫量の判断を含め、ビジネス全体を設計し数字をコントロールする力が求められます。これは当社にとっても引き続き強化すべき課題です。

 当社はソーシャルな企業とよく言われますが、数字には非常にシビアです。売上や利益を重視しており、社内では経済学者アルフレッド・マーシャルの「Cool Head, but Warm Heart」という言葉がよく使われます。途上国への想いがあるからこそ、温かい心だけでなく、冷静な頭でビジネスを組み立てることが不可欠です。利益を出せなければ、次の挑戦にもつながりません。

 そのため、私たちは「店長は中小企業の経営者であれ」と伝えています。店長には店舗運営の全責任を担い、経営者の視点で仕事に向き合うことを求めていますが、ビジネス全体を組み立てる力はまだ伸ばす余地があると感じています。

 もう一つ重要なのが、歴史や文化といった背景を理解し、自分の価値観を自分の言葉で説明できる力です。グローバルな場では、価値観の「理由」を語れることが信頼づくりの土台になります。同時に、相手の文化や価値観を理解しようとする姿勢が、協働の深さを左右します。例えばインドの方と仕事をする際も、宗教観や歴史的背景への理解があるかどうかで、会話の前提が揃い、関係づくりは大きく変わります。

 文化人類学、歴史、哲学、美術といった学びは、異なる価値観の間に橋を架ける視点を与えてくれます。真にグローバルに活躍するためには、こうした背景理解の力を意識的に育てていくことが重要だと考えています。

 

リモートで情報が得られる時代でも、
現地で得る一次情報の価値は揺るがない。

― 貴社の人材育成の取組についてお聞かせください。

 当社では「ファクトリービジット」という研修を実施しています。途上国の生産現場を実際に訪れ、ものづくりの背景を学ぶプログラムで、年間数十名が参加しています。リモートでも情報は得られる時代ですが、現地で自分の目と耳で得る一次情報の価値はやはり大きいと考えています。数十人を派遣するとなると、渡航費だけでなく店舗のシフト調整など相応のコストがかかりますが、理念の中核にある取組として継続しています。

 入社時に抱いていた理念や原点は、日々の業務の中でどうしても薄れてしまうことがあります。現地を訪れることで「自分の中心はここにある」と再確認でき、その体験をチームやお客様に共有できる点でも、直接体験する意義は非常に大きいと感じています。

 その他にも、素材や接客、社内ビジネススクールなどさまざまな研修制度があります。こうした研修制度は10年前にはほとんどありませんでしたが、現在は整備が進んでいます。ただし、育成は研修だけで完結するものではなく、社員が適切なチャレンジを経験できる環境づくりを重視しています。

 

― 社員の成長を促すための人事制度について教えてください。

 当社には年功序列の考え方は一切ありません。店長への昇格も経験年数ではなく、能力と意欲を基準に判断しています。一方で、管理職になるためには「ネクストリーダープレゼン」という仕組みを設けています。これは、全社員の前で約10分間、自分自身について語るプレゼンテーションです。「なぜこの会社に入り、どのように成長し、これから何を実現したいのか」といったストーリーを自分の言葉で伝えます。

 このプレゼンを通じて、本人は改めて「なぜ次のリーダーを目指すのか」を深く考えることになります。さらに、プレゼン後にはランダムに選ばれた管理職約30名が、その人についてかなりの時間を使って議論します。審査する側にとっても、自部署以外の人材について考える機会となり、自身のチーム育成にもつながる仕組みになっています。

 

主体的にキャリアを選び、経験を通じて自分の軸を
更新し続けられる環境こそが、人材の成長を促す。

― キャリア形成の仕組みについて詳しく教えてください。

 当社では、ポジションの異動や新しい役割への挑戦は、基本的に社内公募制を採用しています。例えば商品企画部門で増員が必要になった場合には社内に公募をかけますし、短ければ2週間、長ければ半年ほど他部署で試験的に働く「社内インターン」制度も設けています。インターンを通じて「この人が合いそうだ」と判断されればそのまま異動になることもありますし、後に人員が必要になった際に「以前インターンで来てくれたあの人に来てほしい」という形で異動が決まることもあります。形式上は指名異動に見えても、実質的には公募に近いプロセスとなっています。

 一方で、会社として個人に対してキャリアルートを提示することはありません。「ネクストリーダープレゼン」も、自ら手を挙げない限り参加できません。自分から動かなければ何も起こらない会社だからこそ、自分のキャリアをつくる上では「自分が本当にやりたいこと」の軸や価値観が重要になります。そしてその軸は、入社後も更新していく必要があります。入社時には「絶対に商品企画をしたい」と考えていたスタッフが、店舗でお客様と向き合う中で「自分は企画よりも接客に向いている」と気づくこともあります。原点を大切にしつつ、常に意識をアップデートしていく姿勢が求められます。

 また、「店舗にいるだけではキャリアが積み上がらない」と悩む人もいますが、実際には店舗にいながらでも大きく成長することは可能です。どのような能力が伸びているのかを第三者が言語化して伝えることが、本人の自信や成長実感につながると考えています。

 さらに、隣の芝生は青く見えるものですから、外の世界を知る機会も大切にしています。当社には多様な企業から中途入社したメンバーが多く、大企業の若手社員を1年間受け入れる制度もあります。海外の職人と触れ合う「ファクトリービジット」も同様で、外部の視点という補助線を持つことで、自分の立ち位置を客観視できます。それが現状を見直し、成長の方向性を考えるきっかけになります。会社としては、すべてを教え込むのではなく、成長のきっかけをできるだけ多く用意することを大切にしています。

 

社会がホワイト化する今、
自ら困難な環境に飛び込む姿勢が成長につながる。

― 近年の社会環境の変化について、どのようにお考えですか?

 近年は、これまで以上に「ものが売れにくい時代」になっていると感じています。30年前であれば、社会人になれば車や時計を買うといった一般的な価値観がありましたが、今は自分が本当に好きなものにお金を使う時代です。企業としては、自分たちが提供する価値を明確に示さなければ選ばれない状況になっており、これは日本に限らずグローバルでも同様だと思います。

 さらに、インターネットやAIの登場によって社会の変化は一段と加速しています。今後5年、10年で人々の購買行動や生活様式は大きく変わっていくでしょう。経営の立場としては、強い危機感を持っています。

 こうした環境変化に対応するためには、組織全体として「変化に強い状態」をつくることが重要です。世の中では変化を避けようとする傾向が強まっていますが、当社ではむしろ「変化を恐れず、前向きに捉える」姿勢を大切にしています。

 

― 企業として、若い人材に特に求めるものはありますか?

 一つは、先ほどの話にも通じますが、「自分は何のために仕事をするのか」を徹底的に考えることです。就職活動の参考書にある自己分析を表面的にこなすのではなく、自分を客観的に見つめ、メタ的に理解する姿勢が求められます。

 もう一つは、修羅場や泥臭い仕事の経験です。人が最も成長するのは、いわゆる「修羅場」を乗り越えた時だと思います。この10年ほどで社会は大きくホワイト化し、それ自体は良いことですが、その分、シビアな経験を積む機会が減っています。だからこそ、今は自らそうした環境に飛び込み、挑戦する意欲が必要です。成長のためには、あえて困難な環境を選び取る姿勢が欠かせません。

 

「行動力」をもって「越境」することが、挑戦のマインドを育む。
一般的なレールの外にも選択肢があることを示すことが重要。

―自分から修羅場や泥臭い仕事に取り組んでいくマインドは、どのように培われるでしょうか?

 自分が今いる環境から「越境」することで培われるものだと考えています。分かりやすい例は留学ですが、必ずしも国境を越える必要はありません。普段とは異なる価値観や空気が流れる場所に身を置くこと自体が大切です。日本は将来の衰退が語られる一方、現時点では非常に快適で居心地の良い環境です。その安心圏からあえて踏み出す行動力が求められます。

 また、「とりあえず行動してみる」姿勢も重要です。今は情報が溢れ、学生もよく考えている印象がありますが、考えすぎることで逆に動けなくなることがあります。当社は、創業者の山口絵理子が「とりあえず最貧国に行ってみよう」とバングラデシュに渡ったことから始まっています。考える前に一歩踏み出す勇気こそが、成長の大きなきっかけになります。

 

― 自ら「越境したい」と思えるような意識を育むには、何が必要だと思いますか?

 教科書的な答えを言えば、多様な選択肢が存在することを示すことです。国内の大学だけでなく海外進学という道があるように、一般的なレールの外にも多くの選択肢があることを伝えることが重要です。

 一方で、教科書的でない答えとしては、強制的に越境経験を促す仕掛けも必要だと思います。手を挙げた人だけが行く仕組みでは、どうしても意識の高い人に偏ってしまい、広がりに限界があります。

 さらに、就職活動における「決まったレール」から外れることを恐れる学生が多い現状を踏まえると、そのレール感を少しずつ緩めるような仕組みを公的機関がつくっていくことも有効ではないでしょうか。例えば、卒業後にやりたいことを経験してから入社できる制度を整えるなど、新卒一括採用に依存しない社会の実現が望ましいと考えています。

 

違う世界に飛び込み、新しい価値観に出会うことで、
人生を楽しく、豊かなものにしていってほしい。

― 若者に対し、どのようなサポートが必要と考えますか?

 やはり「一般的なレールを崩していく」ことが重要だと感じています。私自身、小学生の子供がいますが、中学受験が過熱しており、以前よりも「決められたレール」が強まっている印象があります。その中で、1年間だけ人と違う選択をすると、「外れてしまった」「落ちこぼれた」と見られてしまいます。

 一方で、JICAの海外協力隊のように長期で海外に出るプログラムは、ある意味でレールから外れる経験ですが、帰国後に活躍している若者が多くいます。当社にも海外協力隊経験者が在籍しています。こうした事例を踏まえると、中学や高校の段階でも、もっと通常の勉強に縛られずユニークな経験を積めるプログラムがあってよいのではないかと思います。

 また、東京都のような行政が「こんなルートでも良いんだよ」という選択肢を提示してくれると、若者も親も安心してレールを外れることができると思います。「行政が実施しているなら安心して挑戦できる」「1年くらい人と違うことをしても大丈夫」と思えるような仕掛けが必要です。安心して挑戦できる、安心して既存のレールから外れられるような仕組みづくりが求められていると感じます。

 

― 若者に期待することやメッセージをお願いします。

 最近の若い方々は、本当に「良い人」が多いと感じます。社会がホワイト化してきたことも影響しているのか、優しく、真面目で、周囲に配慮できる人が多い。ただし、その良さゆえに、小さくまとまってしまう傾向も否めません。

 だからこそ、もう少し外へ「越境」してほしいと思います。自分とは異なる世界に自ら足を運び、全く違う価値観に触れる機会をつくってほしい。そうした出会いは、人生を楽しく、豊かにしてくれます。一歩踏み出して新しい価値観を知ることができれば、きっとより良い未来が開けるはずです。

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