立命館アジア太平洋大学 ―若者には夢を言葉にし、日々の小さな行動に落とし込んでほしい【ヒアリング】

本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。

 東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から立命館アジア太平洋大学を対象としたヒアリング内容をご紹介します。

INTERVIEW
学校法人立命館 立命館アジア太平洋大学
副学長 メイルマノフ セリック (カザフスタン出身、医学博士)

 

立命館アジア太平洋大学のロゴマーク

 

 

立命館アジア太平洋 大学副学長 メイルマノフ セリックさん
OVERVIEW

本部所在地

大分県別府市

設立年

2000年

教員数

212人 ※2025年5月1日時点

学生数

6,541人(うち、大学院生205人) ※2025年5月1日時点

学部

・アジア太平洋学部

・国際経営学部

・サステイナビリティ観光学部

特色

・学生の約半数が国際学生、教員も約半数が外国籍

・徹底した言語教育、キャンパス内は日・英2言語が公用語

・1年次には国際教育寮で国内外の学生と共同生活

・ディスカッションと実践を重視した講義

・世界中のネットワークを活かした多彩な留学プログラムを提供

 

在学生の約半数が海外出身の国際学生。
キャンパス内で多様な文化や価値観を学ぶことができる。

貴学の教育理念と育成を目指す人材像についてお聞かせください。

 本学は、国内外から多様な学生を受け入れる国際大学として2000年に開学しました。この理念は現在も受け継がれており、約6,500人の学生のうちおよそ半数が海外からの留学生です。開学当初は59の国・地域でしたが、現在では119の国・地域から学生が集まり、国内でも類を見ない多文化環境が形成されています。

 こうした背景から、本学は「マルチカルチュラル・キャンパス」と呼ばれています。日常的に異なる文化や価値観に触れながら、共生する力を育むことが学びの中心にあります。また、年間180人の学生が交換留学に参加するなど、海外経験の機会も充実しており、学生は4年間を通じて自らの関心に応じた国際経験を積むことができます。

 さらに、本学は2030年に向けて、「APUで学んだ人たちが世界を変える」というビジョンを掲げています。その実現に向け、それぞれの住む地域や立場で、他者のために、社会のために行動できる人材の育成を目指しています。

 

― 学生の皆さんは、多文化環境の中でどのように成長していくのでしょうか?

 1年次には、約1,500人が暮らす国際教育寮「APハウス」で、国内外の学生と共同生活を送ります。さまざまな国の学生と共に食事や会話をすることで、多文化環境が自然に生まれます。

 共有のキッチンやラウンジには朝から夜まで学生が出入りし、食事の準備や片付けの合間に会話が始まるなど、日常のさまざまな場面で交流が生まれます。会話は日本語と英語が入り交じり、国内学生は英語を、国際学生は日本語を学びながら互いの関係を深めていきます。寮の部屋にはシェアハウスタイプもあり、スライド式の壁によって隣室との距離が近いこともあり、学生同士が兄弟のように親しくなることも珍しくありません。

 国内にいながら豊かな国際経験を得られることこそ、本学の大きな特徴であり強みだと考えています。

 

初年次に基礎を固め、徐々に専門性を深める学びへ進む。
授業形式はディスカッションが中心。

貴学では、どのような授業スタイルを採用しているのでしょうか?

 本学の授業は、事前学習を前提に授業中に議論を深めるディスカッション形式が中心です。アクティブラーニングやプロジェクト型学習も積極的に取り入れており、学生が主体的に学ぶ機会を多く設けています。また、海外留学から戻った学生から「留学先ではこういう授業があった」というフィードバックを参考に、授業内容の改善や更新も継続的に行っています。

 学びの環境整備にも力を入れており、自由にレイアウトを変えられる学習スペースや、小グループで議論しやすいよう改修された大講義室など、アクティブな学びを促す空間が整っています。

 

― 基礎科目から専門教育へと、どのような段階を踏んで学生を育成しているのでしょうか?

 本学では、大学での学びを円滑に始められるよう、1年次に「スチューデント・サクセス・ワークショップ」と「多文化協働ワークショップ」を必修科目として設置しています。

 「スチューデント・サクセス・ワークショップ」では、主体的かつ協働的に学ぶための基礎スキルやマインドセットを育成し、いわゆるグローバル・シティズンシップを身に付けます。「多文化協働ワークショップ」では、国内外の学生が混合グループで課題に取り組み、多文化環境の中で協働する経験を積みます。どの国の学生ともコミュニケーションを取れるようになるための「最初のステップ」であり、ティーチング・アシスタントが丁寧に学びを支援します。

 さらに、2年次から始まる専門科目に備え、1年次のうちからアカデミック・ライティングを学び、文章構成や論理的な書き方を身に付けます。

 

世界76の国・地域に178の協定校を持ち、
豊富な交換留学プログラムで海外経験を後押し。

― 貴学の交換留学プログラムについて教えてください。

 交換留学は2~4年次を対象とした半年間又は1年間のプログラムで、世界76の国・地域に広がる178大学と提携協定を結び、相互に受入枠を設定しています。1年でも休学することなく参加でき、留学先で取得した単位を本学の単位として認定できる点が大きな特徴です。

 授業料は原則として相互免除のため、アメリカなど授業料の高い大学でも、本学の授業料のみで学ぶことができます。年間約180人の学生が世界各地の大学へ留学しています。

 

― 交換留学先はどのように選ぶのでしょうか?

 学生はまず、自分の興味のある地域や教育プログラムから候補を絞り込み、大学のサイトで情報収集を行います。学内では交換留学フェアを開催し、留学経験者や教職員が学生の相談に応じるなど、学生を後押しする仕組みが整っています。人気の高い大学は高倍率になることもありますが、選考に漏れた場合でも別の大学を選べる制度があり、できるだけ多くの学生が海外経験を得られるよう工夫しています。

 本学では、1年次から寮やキャンパスで多国籍な友人関係が自然に生まれるため、「韓国人の友人ができたので韓国へ」「アメリカ人と仲良くなったのでアメリカへ」といったように、友人とのつながりが留学先選びのきっかけになることも少なくありません。もちろん円安など経済的なハードルはありますが、多くの学生がアルバイトで費用を準備しながら、「留学に行きたい」という思いを実現させています。

 キャンパスで多文化環境を経験した上で、次のステップとして自分がマイノリティとなる「海外の大学」に飛び込む。授業スタイルや価値観の違いを学びながら大きく成長していく。交換留学は、そのための重要な機会だと考えています。

 

フィールドスタディやFIRSTなどの海外プログラムを通じて、
学生は主体性や異文化理解などを身に付ける。

その他に実施している海外プログラムについてお聞かせください。

 フィールドスタディは、外国籍教員が持つ企業や研究機関とのネットワークを活かし、学生を現地に連れて行ってテーマに沿った学びの機会を提供するプログラムです。扱う分野は幅広く、プログラム内容も毎年アップデートされています。

 また、1年次には「FIRST(First-year Intercultural Relations Study Trip)」というプログラムもあります。これは、入学直後の6月に韓国でフィールドワークを行うもので、グループや目的地は現地でのくじ引きによって決定します。ホテル探しや調査内容の検討も学生自身が行う、主体性を重視したプログラムです。韓国語が話せる先輩や職員が同行しま
すが、基本的には学生の自主性を尊重し、目的地を間違えることがあっても、命の危険がない限り口出しはしません。参加した学生は、基礎的な調査手法や異文化への感受性を養うとともに、コミュニケーション能力、協働力、チャレンジ精神、プレゼンテーション能力など、本学で必要となる多様な力を身に付けていきます。

 

― 今後、強化していきたい教育プログラムがあれば教えてください。

 本学では、「ライフロングラーニング」に力を入れていきたいと考えています。「ライフロングラーニング」とは、大学卒業を終点とせず、生涯にわたり学び続けるという考え方です。オンラインやオンデマンド授業を整備し、本学の卒業生が再び学べる環境をつくりたいと考えています。

 また、卒業生に限らず、一般市民の方々―例えば60代・70代の方々に向けた学習環境も整備していきたいと考えています。年配の方がAPUの雰囲気や多文化環境の中で若い世代と触れ合うことで、気持ちが若返り、新しい学びに挑戦できるような場を提供したいと考えています。これらの取組は、2030年までの実現を目指しています。

 

国際的なキャリアの広がりと卒業生ネットワークが、
大学の強みを形づくっている。

― 日本人学生は卒業後どのような進路を選択していますか?

 国際的な進路を選ぶ卒業生は多いと感じています。企業からは、本学の学生に対して「英語力がある」「多文化を理解している」といった評価をいただいており、海外展開を進める企業への就職が目立ちます。実際に、楽天グループやファーストリテイリングなどで活躍する卒業生もいます。

 また、国際機関やNPOなど、人道支援・国際協力の現場で働く卒業生も少なくありません。さらに、海外でレストランを開業するなど、起業という形でキャリアを広げる例もあります。世界各地の卒業生の飲食店をまとめた「APUミシュランリスト」を作ろうという構想が出るほどで、ビジネス、国際機関、起業と、多様な進路が実際に広がっている点が特徴です。

 

― 卒業生ネットワークが大学にもたらしている効果や強みを、どのように評価されていますか?

 卒業生ネットワークは年々強まり、教育面でも産学連携の面でも大きな力となっています。例えば、在学中に健康科学に関心を持ち、医学系大学院に進み医学博士となり、現在はAPUの非常勤講師として授業を担当している卒業生もいます。学生として受けた授業を、今度は教える側として担うという循環が生まれています。

 さらに、海外在住のOB・OGは、地域企業の海外展開を支える重要な存在です。大分・宮崎の医療機器メーカーがタイで事業展開を進めた際には、現地在住の卒業生が病院や関係者との調整役を担い、企業と現地社会をつなぐ「橋渡し役」として活躍しました。

 このように、本学の卒業生ネットワークは多方面に広がり、大学の教育・研究・地域連携を支える大きな基盤となっています。

 

意欲的に行動する若者が増える一方で、
発信力やアピール力の弱さに課題がある。

― 日本の若者にはどのような特長があるとお考えですか?

 今の若い世代は、自分の興味や問題意識を起点に主体的に行動できる人が非常に多いと感じています。かつては学校の部活動や校内プロジェクトの範囲で完結していた活動が、今は学外の団体に参加したり、自ら企画を立ち上げたりと、活動のフィールドが大きく広がっています。高校生のうちから起業に挑戦するケースもあり、「与えられた活動に参加する」のではなく、「自分でテーマを見つけ、仲間を集めて動き出す」姿が目立ちます。

 自分の関心分野や解決したい社会課題に対し、年齢にとらわれずに一歩踏み出す力を持つ若者が増えていることは、これまでの世代にはあまり見られなかった大きな強みだと感じています。

 

― 一方で、課題や不足を感じられる点があればお聞かせください。

 課題としては、コロナ禍の影響もあり、対面でのコミュニケーションにやや不慣れな学生が増えている印象があります。シャイな学生が多く、頭の中には明確な考えや目的を持っていても、それを言葉にして伝えることにためらいがある。落ち着いているとも言えますが、自分の思いを適切に表現したり、相手に働きかけたりする発信力やアピール力が十分に発揮されていないケースが見られます。

 また、デジタルスキルの面でも学生間の格差が大きくなっていると感じます。以前はパソコンの基本操作レベルはほぼ一律でしたが、現在はパソコンにほとんど触れたことがない学生から、AIツールを含め高度に使いこなす学生まで、スキルの差が大きく広がっています。

 こうした状況を踏まえ、本学ではコミュニケーション力とデジタルスキルの両面を底上げする取組を進めています。

 

国内で活動するとしてもグローバルな視点は不可欠。
そのために英語力を伸ばし、海外に出る経験は重要。

― 日本人学生の海外志向については、いかがでしょうか?

 本学の日本人学生でも、卒業してすぐに海外で働き始める人は決して多くありません。しかし、近年は海外の給与水準が上がっていることもあり、日本で経験を積んだ後に海外へ向かう流れは今後強まる可能性があります。

 一方で、国内でキャリアを築く場合でも、グローバルな視点を持って活動することは不可欠です。その意味で、日本全体としてまず取り組むべきは英語力の底上げだと感じています。英語を母語としない国の中でも、日本の英語力はかなり低い水準にあり、ここは明らかに強化が必要なポイントです。

 また、日本ではパスポート保有率も決して高くありません。若い人には、遠い国でなくても構いませんので、まずはアジアなど身近な地域に一度出てみてほしいと思います。

 

― 副学長ご自身はカザフスタンのご出身ですが、日本社会についてどのように感じておられますか?

 私は日本の大ファンで、日本社会には良いところが本当にたくさんあると感じています。「ここが悪い」と強く思ったことはほとんどありません。ただ一つ気になっているのは、若者が大都市圏に過度に集中していることです。ここ別府を含め、地方では若い人が少なく、このままでは20年後に地域がどうなってしまうのか心配になることがあります。本来は、それぞれの地元に戻って活躍することも素晴らしい選択肢のはずです。

 また、海外から日本に来ている留学生の多くは、日本の文化や社会が好きで「日本のファン」として学びに来ています。彼らが将来、日本各地で活躍したり、日本と母国をつなぐ役割を担ってくれれば、日本社会が再び活力を取り戻す大きな力になると期待しています。

 

グローバルリーダーには異文化への理解力と、
常に学び続ける姿勢が必要。

― グローバルリーダーに必要な能力・スキルは何だとお考えですか?

 まず挙げられるのは、「異文化への理解力」と「他者を理解しようとする姿勢」です。国籍や宗教、バックグラウンドが異なる相手と対話し、価値観の違いから摩擦が生じても、それを避けるのではなく、そこから学ぼうとする姿勢が求められます。世界情勢の対立や分断が報じられる中、目の前の一人の人間として相手を見る視点を育てられるかが重要です。

 さらに、一度身に付けた知識やスキルにとどまらず、変化に合わせて自分自身をアップデートし続ける「学び続ける姿勢」も欠かせません。AIの登場や産業構造の変化により、現在有効なスキルが数年後には通用しなくなる可能性があります。絶えず学び、自分の知識をアップデートし続けることで、リーダーとしての力を維持することができると考えています。

キャンパス内にある国内最大級の木造学舎 グリーンコモンズ

キャンパス内にある国内最大級の木造学舎「グリーンコモンズ」

 

若い方々には夢を掲げ、
その実現に向けて小さな一歩を積み重ねてほしい。

―   若者の挑戦を後押しするために、行政にはどのような役割を期待されていますか?

 街全体として、海外との連携や文化的な交流をさらに増やしていただきたいと考えています。若い方々が日本にいながら海外を体験できるよう、自治体主導で国際交流イベントや海外の学生・市民との交流プログラムを継続的に提供していただけるとよいと思います。

 例えば、地域の学校や商店街、企業と連携した交流事業や、ホームステイ・留学生受入れ家庭への支援など、日常生活の中で海外の人と出会える場が増えれば、海外への心理的ハードルは大きく下がります。大学以外の場でも自然に異文化に触れられる仕組みが広がれば、若者の挑戦を後押しする大きな力になると感じています。

 

― 日本の若者に期待することやメッセージをお願いします。

 皆さんにはまず、「自分の夢」をしっかりと言葉にしてほしいと思います。そして、その夢に向かって一歩ずつ進むための「スモールステップ」を具体的に描いてください。夢を遠い理想として眺めるのではなく、旗のように高く掲げながら、今日・明日できる小さな行動に落とし込んでいくことが大切です。

 うまくいかないことや失敗も必ずありますが、それも次のステップにつながる大切な経験です。ぜひ、自分の夢を周囲に語り、仲間と支え合いながら、最後まで諦めずに挑戦を続けてください。そして、一つの夢が叶ったら終わりではなく、また次の夢を掲げて歩みを進めていってほしいと思います。

 
在校生の声
岩切春菜さん
PROFILE

氏名

岩切 春菜

所属

アジア太平洋学部

Q. 立命館アジア太平洋大学(APU)に入学したきっかけは何ですか?

 「海外経験を積みながら世界中に友人をつくりたい」という、自分の希望を実現できる環境が整っていたことが大きな理由です。さらに、先輩方から「自分の頑張り次第でチャンスがどこまでも広がる大学だ」と聞き、挑戦できる場だと確信しました。入学前から「個展を開きたい」「イベントを企画したい」といった具体的な目標も描いていました。

Q. APU入学以前の国際経験について教えてください。

 最初の国際経験は7歳の時、母とメキシコの家庭にホームステイしたことです。その後も台湾やアメリカなど計7か国に滞在し、逆に自宅で留学生を受け入れることもありました。家庭内で多言語に触れる機会が多く、自然と多文化に親しむようになった一方、中学時代のアメリカでのホームステイでは英語が思うように通じず苦労しました。この経験が、英語を本格的に学ぼうと決意するきっかけになりました。

Q. APUには、入学まで海外経験が全くない学生もいるのでしょうか?

 海外経験がないまま入学する学生もいます。ただし、そうした学生でも「型にはまらない」「行動力がある」という印象を受けます。例えば、自ら寺子屋を運営したり、NPOで活動したりと、日本の一般的な学校では場合によっては浮いてしまうようなタイプの人や、自ら何か新しいことを始めるなど行動力がある人が多いと感じています。私自身、「普通」と言われるよりも、「人と違うね」と言われる方が褒められていると感じます。

Q. 学生の立場から見て、APUの授業はどのように感じていますか?

 APUのいくつかの授業は、100人を超える教室でも毎回異なる多国籍のメンバーとグループワークを行う点が特徴です。価値観の違いから議論がぶつかることもありますが、違いを拒まず、むしろ好奇心を持って踏み込む姿勢が大切だと感じています。
 特に1年次の必修科目の「多文化協働ワークショップ」は印象に残っています。チームで課題に取り組み、最後に成果を発表するのですが、日本語が通じないメンバーや時間感覚が異なるメンバーもいて大変です。それでも、そうした困難を一緒に乗り越える過程こそが、この授業の醍醐味だと思います。

Q. APUのキャンパスはどのような環境ですか?

 授業以外の場でも、日常的に世界を学べる環境があります。私は食事をしながら友人と話す時間が好きで、例えば、バングラデシュ人の友人と本場のカレーを食べに行ったり、APハウス(学生寮)で料理を作ってもらいながらイスラム教の聖典について教えてもらったりと、自然な形で異文化に触れる機会が多くあります。

Q. 学生寮 APハウスでRA(レジデント・アシスタント)をされていたそうですが、その中で苦労したエピソードがあれば教えてください。

 苦労したことは数え切れません。私は1年生では寮生として生活し、2年生からRAとして活動しました。RAは、寮で暮らす学生を生活・学習・メンタル面で支える「お兄さん・お姉さん」のような存在で、日常の相談からトラブル対応まで幅広く担います。

 生活面では、「IHコンロから火が出てしまう」「ゴミの分別が分からない」など、日々さまざまな相談に対応しました。中でも特に難しかったのは、国際学生のメンタル面のサポートです。異国で挑戦している分、不安定になる学生も少なくありません。例えば、モンゴルから来た学生がグループワークの負担や人間関係の悩みから深刻な状態に陥った際には、最も身近な相談役として寄り添い続けました。

 大変なことも多かったですが、異文化交流の最前線で人と向き合う経験は、私自身のメンタルを大きく鍛えてくれたと感じています。

Q. 特命副学長サミットのメンバーも務められているそうですが、どのような活動をされていますか?

※APUでは、在校生・高校生にそれぞれ「特命副学長」と、それを支える「サミットメンバー」を任命している。

 在校生特命副学長のサポートに加え、APUが掲げる「ライフロングラーナー構想」の具体化に向けたアイデア検討が主な役割です。「ライフロングラーナー構想」とは、年齢や職業、社会的立場を超えて多様な人々が交わり、課題や問いを共有し、共創していく新たな学習プラットフォームをつくる取組です。

 先日は、大学と連携して高齢者向け住宅を運営する施設を東京で視察し、生涯学習の循環をどのように生み出すか議論を深めました。こうした活動を通じて、一学生の視点を超え、大学全体の現在と未来を見据える力が養われていると感じています。

Q. キャンパス内でも多文化に触れられますが、海外でしか学べないことは何だとお考えですか?

 APUは多様性に富んだ環境ですが、生活の場は日本であり、学生も若い世代が中心です。国際学生の多くも日本に好意的で、ある意味「フィルター」を通して集まっている面があります。

 一方で、海外に出ると日本に対して好意的でない人や、私をアジア人というだけで差別的に扱う人に出会うこともあります。そうした厳しい現実を含め、ありのままを受け止める経験は海外ならではの学びだと思います。

 また、現地の生活や空気感を肌で感じられることも大きな価値です。タイをバックパックで訪れた際、APUの先輩のご家族に寺院のフェスティバルへ連れて行っていただきました。そこでは中国語の映画が野外上映され、お坊さんにお祈りする地域の方々や路上で金銭の提供を求める方がいました。私にとってそこは、楽しい感情だけでは終わらない空間で、「現場にいなければ分からない実感」は海外でしか得られないものだと感じました。

Q.  海外経験はご自身の進路選択に影響を与えましたか?

 大きく影響しました。私は日本人だけの会社では働きにくいかもしれないと感じるようになりました。幼い頃から価値観が似た人ばかりの集団に違和感があったため、働く環境を選ぶ上で価値観の多様性は非常に重要だと考えています。

Q.   APUでの経験を通じて、どのような点が成長したと感じますか?

 私は失敗から学ぶタイプなので、多くの挑戦と失敗を積めたことが大きな財産です。「APUは全部自分次第」と聞いていたこともあり、学内外で40以上の活動に挑戦し、アルバイトも一時期は五つ掛け持ちしました。

 特に印象に残っているのは、友人の国際的な募金活動を応援しようとSNSでシェアした際、その活動に対立する国の友人を傷つけてしまったことです。配慮が足りず、軽率だったと深く反省しました。

 こうした経験を重ねる中で、自分の視野の狭さを痛感すると同時に、忍耐強さも身に付いたと感じています。

Q.   世界の人々と協働しながら課題を解決するために必要な能力・スキルは何だとお考えですか?

 私は異文化の人々を「自分とは違う特別な存在」とは捉えていません。同じ地球に住む以上、必ず共通点があるはずだと思っています。だからこそ、海外から来た人に対して壁を作らず、「どんな人なんだろう」と興味を持ち、相手を知ろうとする姿勢が大切です。

 APUには母国同士が対立している学生もいますが、同じキャンパスで学び、生活している仲間であることに変わりはありません。世界情勢や出身地にとらわれず、「一緒に暮らす仲間」として向き合う姿勢が、国境を越えて協働する上で重要だと感じています。

Q.   行政等に期待することがあれば教えてください。

 若者の挑戦を後押しするような経済的なサポートがあるとよいと思います。例えば、ホームステイ参加時の費用を行政が一部負担する制度や、受入れ家庭への補助などがあれば、経済的理由で海外に行けない子供たちの大きな後押しになります。

 また、海外大学進学を支援する奨学金制度等が拡充され、広く周知されていれば、私自身も海外大学を選択肢の一つとして真剣に検討していたと思います。経済的なサポートには、挑戦のハードルを大きく下げる力があると感じています。

記事ID:111-001-20260614-013081