東京大学 ―若者にはキャンパス外の複雑で多様な世界に一歩踏み出してほしい【ヒアリング】
本ページに掲載している内容は、2026年3月27日時点の情報です。
東京都は、令和7年度、新たな価値や課題解決を創造し、日本や世界の成長・発展を牽引していく人材を輩出することを目的に、第一線で活躍するグローバルリーダーへのインタビューを中心とした調査を実施しました。 本記事では、調査報告書の中から東京大学を対象としたヒアリング内容をご紹介します。
本部所在地
東京都文京区
設立年
1877年
教員数
6,122人 ※2025年5月1日時点
学生数
28,023人 (うち、大学院生14,006人) ※2025年11月1日時点
学部
教養学部、法学部、経済学部、文学部、教育学部、 工学部、理学部、農学部、薬学部、医学部
特色
・卓越性と多様性を体現する国内最大規模の総合大学
・1・2年次の前期課程でリベラルアーツを学び、3・4年 次の後期課程で学部・学科を選ぶ進学選択制度を採用
・2023年、グローバルリーダーの育成に向けて「東京大学グローバル教育センター」を開設
・2027年、学士・修士5年間の新たな教育課程 「UTokyo College of Design」を開設予定
これからのグローバルリーダーは、
「世界の多様性」を真に理解することが不可欠。
― 貴学の教育理念と育成を目指す人材像についてお聞かせください。
本学の理念を示す「東京大学憲章」では、「世界的視野をもった市民的エリート」の育成を掲げています。ただし、この言葉に学内で統一的な定義があるわけではありません。むしろ、学生にどのようなシティズンシップを育んでいくべきかについて、私たち自身が議論を重ね、問い続けていく姿勢こそが重要だと考えています。
人材育成において、特にグローバルな観点から重視しているのがリーダーシップです。人を惹きつけ、協働し、未来を切り拓く一員となる視座を持つ人材を育てることは、本学の使命であると考えています。
― リーダーシップの育成に当たり、学生にはどのような能力や姿勢を身に付けてほしいとお考えですか?
本学の学部生は、約97%が日本国籍、約8割が男性、約6割が関東圏出身と、比較的似通ったバックグラウンドを持つ傾向があり、全体として均質化しているのが現状です。だからこそ、まずは「世界の多様性」を真に理解することが不可欠です。世界には多様な価値観や物事の捉え方、議論の方法が存在することを知り、その中で自分の意見をしっかり持ち、相手と向き合う力を養ってほしいと考えています。
多様性には喜びもあれば難しさもあります。新たな発見や刺激が生まれる一方、摩擦や戸惑いも避けられません。コミュニケーションが常に円滑に進むとは限らないからこそ、その両面を経験し、どう乗り越えていくかを考え続ける姿勢を身に付けることが、これからのグローバル社会を牽引するために不可欠です。
さらに、本学は設立から150年近く、「日本人男性中心の価値観」で動いてきた組織でもあります。その価値観が当たり前ではないことに気づき、多様な視点を受け入れることが、今、大学にも学生にも求められていると感じています。
誰もが国際的な経験を積めるよう、
門戸を広げ、充実した国際教育プログラムを提供。
― 貴学が提供している国際教育プログラムについて教えてください。
国際的な経験を積めるよう、さまざまな国際教育プログラムを展開しています。
まず、「国際総合力認定制度」です。これは、学部学生が「国際総合力」(世界の多様な人々と共に生き、共に働く力)を伸ばすための制度で、オンデマンド基礎講座の受講、外国語学修、そして、外国語による授業科目の履修又は海外での活動へ参加することで、国際総合力認定を目指す仕組みです。学部1年生から全員が登録し、要件を満たした学生には認定証を発行しています。本制度により、学生が国際的な活動に踏み出しやすい環境を整えており、現在は卒業時に3割程度の学生が認定を受けていることを目標としています。
次に、「グローバルリーダー育成プログラム」です。これは全学部学生が参加可能で、さまざまな国際教育プログラムを通じて、国際社会で活躍するためのリーダーシップを体得し、国際総合力を涵養することを目的としています。元々は選抜型で人数制限もありましたが、現在は審査を撤廃し、希望する学部学生は誰でも参加できるようにしました。参加者が増えてもプログラムの質を維持できるよう設計し、アクティブ・ラーニング型のオンライン授業科目も整備しています。参加者はまだ多くありませんが、将来的には全学生の1割程度が挑戦することを期待しています。
さらに、留学のハードルを下げることや、留学先や1・2年次の教養課程で身に付けた外国語の語学力を維持することを目的として、語学学習の機会を提供しています。具体的には、専門課程に進む3年次以降も履修できる英語によるディスカッション中心の授業や、トライリンガルプログラムとして英語以外の外国語の力を伸ばす授業を実施しています。
こうしたプログラムへの参加を促すため、インセンティブの付与にも力を入れています。「グローバルリーダー育成プログラム」では達成度に応じた奨学金を支給しています。学生も人間ですから、前向きに挑戦するための動機付けとして、さまざまなインセンティブを用意することは重要だと考えています。
本来は全員が留学を経験することが理想。
短期留学はその「最初の一歩」として果たす役割は大きい。
― 今後、強化していきたい教育プログラムがあれば教えてください。
中長期の留学が難しい学生も多いことから、1~2週間程度で参加できる短期プログラムを今後さらに充実させていきたいと考えています。短期プログラムには大きく二つの形があります。一つは、本学の教員が主体的に関わり、引率や指導を行うプログラム。もう一つは、協定校等の学外の機関に運営を委ねるプログラムです。それぞれ異なる役割と意義を持っています。
教員が関わるプログラムは、本学ならではの深い学びが得られる一方、特定の教員に依存すると、その教員がいなくなった際に継続が難しくなるという課題があります。そのため、こうした特色ある取組を大切にしつつ、学外の機関と連携し、毎年安定的に実施できる短期プログラムを増やしていく。この両輪をうまく組み合わせていくことが重要だと考えています。
例えば、教員主導で実施しているバングラデシュのアジア女性大学との交流プログラムでは、貧困層や難民の学生と本学の学生が同じ目線で学び合う、非常に意義深い経験が得られます。しかし、手間も大きく、一度に参加できる人数は十数名に限られています。より多くの学生が参加できる仕組みを整え、限られたリソースの中で短期留学の選択肢を広げていくことが、今後の大きな課題です。
― 留学における短期と長期の違いについて、どのようにお考えですか?
短期留学は、海外に踏み出すための「最初の一歩」として位置づけています。一方で、長期留学では、生活や学習の中で生じるさまざまな感情の波を経験しながら、その国の文化に徐々に馴染んでいくプロセスを体感できます。現地の授業が理解できず苦労したり、泣きそうになりながらレポートに向き合ったりすることもあるかもしれませんが、そうした困難を少しずつ乗り越えていく経験こそ、長期留学ならではの価値だと考えています。
本来であれば、全員が半年程度の留学を経験できるカリキュラムが理想ですが、現実的には容易ではありません。だからこそ、短期留学がその第一歩として果たす役割は大きいと考えています。
「東大生」という肩書が通用しない環境に身を置き、
先入観と現実とのギャップに気づくことが大きな学びとなる。
― 国際経験を通じて、学生にはどのような学びを得てほしいとお考えですか?
私は、20歳前後の学生が高尚な目的意識を持って海外に行く必要はないと考えています。むしろ、「友達をつくりに行く」くらいの気持ちで十分です。イスラム教徒の人、日本語が通じない人、トランスジェンダーの人など、日本の大学ではなかなか出会えない人々と交流し、時には衝突も乗り越えながら友人関係を築く。そのような体験こそが、10年・20年後に大きな意味を持つはずです。
特に、いわゆるグローバルサウス※1と呼ばれる地域の学生との交流は、学生に強い印象や感動を与えます。私たちはさまざまな先入観を抱えていますが、実際に交流してみると、その先入観が正しい場合もあれば、全く異なる場合もあります。例えば、グローバルサウスの学生も難民の学生も、普通にスマートフォンを持ち、SNSで発信している。そうした小さな驚きや発見の積み重ねが、学生の成長につながっていくのだと思います。
また、グローバルサウスの人々との交流では、日本人の側が「教えてあげる」というスタンスになりがちです。しかし、同じ目線で話してみると、相手の方が自分より英語が堪能で、豊かな経験を持っていることに気づくこともあります。こうした先入観や固定観念と現実とのギャップに気づくこと自体が、学生にとってかけがえのない学びになります。
さらに、日本にいれば「東大生」という肩書は強い意味を持ちますが、海外では必ずしもそうではありません。「東大生」と名乗っても、「東京にも大学はあるよね」と軽く受け流されることもあります。あるいは、自分は英語が得意だと思っていたのに、相手の言っていることが全く理解できないという経験をすることもあるでしょう。こうした基本的なギャップに若いうちに気づくことは、特に均質化が進んでいる本学の学生にとって、非常に重要な経験だと考えています。
※1 グローバルサウス:先進国に対して、アジア・アフリカ・中南米などの発展途上国や新興国を指す言葉。
今後はグローバルサウスとの連携を強化し、
欧米とは異なる多様性や価値観に触れる選択肢を提供。
― グローバルサウスとの連携について、どのようにお考えですか?
海外留学というと、どうしても北米やヨーロッパが主流となりがちです。これは本学の学生に限らず一般的な傾向であり、決して否定すべきものではありません。しかし、昨今の世界情勢を踏まえると、欧米以外の社会を若いうちに体験することは、これまで以上に重要になっていると考えています。
実際、インド等の国を訪れると、社会の圧倒的な勢いを肌で感じます。「こんなことが起きているのか」「社会はこうして変わっていくのか」と、私自身もこの年齢になってなお学ぶことが多くあります。こうした地域を20歳前後で体験し、多様な価値観に触れることは、学生にとって将来大きな財産となるはずです。また、若者がこうした地域で友人をつくることは、日本社会がこれらの国々と関係を深めていく上でも非常に有益だと考えています。
一方で、本学の現状を振り返ると、グローバルサウスとの連携は十分とは言えません。そこで今後は、交換留学プログラムにおいて、こうした地域の協定校を戦略的に増やしていきたいと考えています。最近では南アフリカ、インド、バングラデシュの大学と協定を締結しました。また、グローバルサウスを訪れる短期プログラムについても、今後さらに整備していく方針です。
グローバルサウスにも、実は魅力的な大学や教育環境が数多く存在します。例えば、南アフリカの協定校は、美しいキャンパスに多様な学生が集まり、世界各地から留学生を受け入れています。キャンパスの雰囲気はアメリカの大学と大きく変わりません。一方で、キャンパスの外に出れば、欧米とは異なる多様性や社会課題に触れることができます。どちらが良い・悪いという話ではなく、学生に多様な選択肢を提供し、異なる価値観に出会える機会を広げていくことが重要だと考えています。
インターンシップは学生の需要が高く、海外では当たり前。
制度を整え、国内外で充実させていくことが必要。
― 貴学が民間企業と連携して行っている国際教育プログラムについて教えてください。
「グローバル・インターンシップ・プログラム」は、民間企業からの寄付を基盤に、海外でのフィールドワークと企業・工場見学を組み合わせた実践型プログラムとして展開しており、学生から非常に高い人気を得ています。単なる職場見学にとどまらず、現地社員との対話やグローバルな事業展開の背景を学ぶことで、教室内の学びを社会課題と結びつけて考える貴重な機会となっています。
一方で、学生のニーズは明確に「インターンシップ」へと向かっているものの、日本の大学では教育カリキュラムの中にインターンシップを十分に組み込めていないという課題があります。海外ではインターンシップが一般的であり、単位化の制度も整備されています。
本センターとしては、今後、海外からの留学生が日本国内で、また本学の学生が海外でインターンシップに参加できるようなプログラムを整えていきたいと考えています。しかし、日本企業では日本語ができない学生を受け入れにくいこと、制度化の遅れ、ビザの問題など、解決すべき課題は多くあります。それでも、インターンシップとグローバル教育を一体的に捉えることは世界的な潮流であり、本学としても今後しっかりと取り組んでいきたいと考えています。
海外に関心はあるが、踏み出せていない学生が多い。
挑戦への「あと一歩」を後押しする仕掛けづくりが必要。
― 世界に羽ばたき活躍する若者を増やすための育成上の課題について、どのようにお考えですか?
「日本の若者は内向きだ」という一般的な見方は、本学の学生に限れば必ずしも当てはまりません。しかし、実際に海外に強い関心を持ち、自ら情報収集を行って留学や国際プログラムに挑戦する学生は、全体の10~20%程度にとどまっています。
課題としては、それ以外の80~90%程度の学生にどのように働きかけ、海外経験の意義や面白さを実感してもらうかという点にあります。学生に直接尋ねても、「海外には絶対に行きたくない」と明言する学生はほとんどいません。多くは「機会があれば行ってみたい」「1~2週間であれば興味がある」と答えます。しかし、実際にはコストへの不安、語学力への自信のなさ、就職活動への影響といった懸念に加え、授業・サークル・アルバイトなど日々のスケジュールが過密で、留学に踏み出せないケースが少なくありません。だからこそ、学生の「あと一歩、二歩」を後押しする仕掛けづくりが課題だと感じています。
そのため、学生がグローバルな体験の重要性を認識できる機会を、授業内外で提供することが重要です。具体的な取組として、入学して間もない5月に、1・2年生が在籍する駒場キャンパスで「留学フェア」を開催しています。毎年約1,000名の学生や家族が参加し、早い段階から海外経験へのイメージを膨らます機会となっています。
さらに、学生が世界の多様な価値観に触れられる場として、海外からのゲストを招いたセッションを実施しています。各国の大使や国連の事務次長などをお迎えし、30~40名程度の少人数で本学総長や国際担当理事も交え対話を行うことで、学生が直接グローバルな視点に触れられる機会を提供しています。一度に参加できる人数には限りがありますが、それでもこうした地道な取組を積み重ね、少しずつ国際的な視野を育んでいくことが大切だと考えています。
国際経験を正当に評価する仕組みづくりは、
大学と社会双方の責務。
― 国際的な視野を持った若者を増やすためには、日本社会はどのように変わる必要があるとお考えですか?
大学や企業を含め、社会全体で若者の国際経験を後押ししていく必要があると考えています。まず、日本の大学では、留学すると留年につながるケースが少なくありません。単位互換が認められなかったり、就職活動の時期が合わなかったりと、さまざまな理由から留学をためらう学生が多いのが現状です。「留学するなら留年くらい当たり前だ」「それくらいの覚悟を持て」という声もありますが、学生にとっては1年分の授業料が追加で必要になることは大きな負担ですし、「みんなと一緒に4年で卒業したい」と考える学生も多くいます。そのため、大学は留学しても4年で卒業できるよう、カリキュラムを柔軟に設計すべきですし、企業も従来の新卒一括採用のような就職活動の仕組みを見直す必要があります。
また、社会全体が留学を正当に評価する方向へ変わらなければなりません。実際のところ、就職活動で国際経験がどれほど評価されているのかは、まだ見えにくい部分があります。「そんな経験はいらない」という企業も依然として存在しているように思えます。グローバルな体験をした学生をきちんと評価する仕組みを整えることは、大学と社会双方の責務です。評価が伴わなければ、学生も留学に行くメリットを感じられなくなってしまいます。
海外経験の成果は数値化が難しいものの、学生に与える影響は決して小さいものではありません。こうした経験の真価は、すぐに数値として表れるものではありませんが、10年・20年後には確実に本人の成長として表れ、最終的には社会に還元されるものだと信じています。
さまざまな立場の若者に光が当たるよう、
行政には経済支援と機会創出を求めたい。
― 若者の挑戦を後押しするために、行政にはどのような役割を期待されていますか?
東京都には、海外からの留学生を受け入れるインターンシップの拡充をぜひお願いしたいです。特に、英語で受け入れられる体制が整えば、留学生にとって大きな助けになります。また、夏休みや春休みに2~3週間、留学生を受け入れるコミュニティやホストファミリーの制度が整えば理想的です。その期間に、留学生が小中学校で英会話を教えたり、子供たちと交流したりできれば、より有意義な学びが生まれると思います。
私は、「グローバル」とは海外に行くことだけでなく、キャンパスや都内外の地域にも多様な体験があると考えています。例えば、日本人学生と留学生が一緒に東京の過疎地域を訪れ、地域の暮らしや課題を学ぶ。また、北海道から沖縄まで全国のコミュニティを巡るプログラムが実現すれば、若い世代が地域社会と向き合う貴重な機会になります。地域の課題に触れ、自分たちに何ができるかを考えること自体がグローバルな体験であると考えています。
さらに期待したいのは、学生が一歩を踏み出すための経済的支援です。コストや家庭の事情などを理由に海外へ行けない学生は少なくありません。現在は恵まれた環境にある学生が海外へ行くことが多い状況ですが、より多様な層が挑戦できる奨学金制度や支援策が整えば、社会全体も変わっていくはずです。行政には、さまざまな立場の若者に光が当たる仕組みづくりをぜひお願いしたいです。
― 若者に期待することやメッセージをお願いします。
学生には、キャンパスの外には決して綺麗でも簡単でもない、複雑で多様な世界が広がっていることを理解してほしいと思います。それを若いうちに体験するかどうかで、将来に大きな違いが生まれます。だからこそ、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
氏名
S.Mさん
所属
法学部
Q. ご経験された交換留学について教えてください。
3年生のAセメスター(秋学期)から1年間、イギリスのマンチェスター大学に交換留学しました。主に途上国開発について学ぶとともに、東京大学でも履修している国際政治や安全保障に関する授業も受講しました。
Q. 留学に行こうと思ったきっかけは何ですか?
高校生の頃、夏休みにアフリカ・ガーナで2週間のボランティア活動に参加したことがきっかけで、日本とアフリカの関係に関心を持つようになりました。国際関係やODA・開発援助について学びたいという思いから現在の大学に進学しましたが、入学後はそれらを体系的に学べる機会が限られていました。
そのため、1・2年生の間はゼミでの論考執筆を通した学びや自主研究に取り組んでいましたが、より深く学びたいと考え、留学を決意しました。また、高校生の頃から「いつかは留学したい」という思いが漠然とあり、大学選択の際には留学制度の充実度も重視していました。
Q. 留学ではどのような学びが得られましたか?
学術面では、期待していたとおり新しい知識を多く得ることができました。所属している法学部では、大教室で教授が講義を行う形式が中心で、ゼミ以外では双方向のやり取りや質問の機会が限られてしまうと感じることがあります。一方で、留学先では大きな講義室でも学生が積極的に質問や発言を行い、教授もインタラクティブな授業を重視していました。講義中にディスカッションが挟まれることも多く、さらに週1回、事前に読んだ文献について1時間議論する「チュートリアル」も設けられていました。加えて、意見の多様性は日本と比べて圧倒的でした。政治に関する授業では、国籍や宗教によって政治観が大きく異なることを実感しました。内戦や紛争を扱う際には、当事国出身の学生が自身の経験を踏まえて議論に参加することもあり、日本では得難い貴重な学びとなりました。
Q. 留学経験を通して身に付けたことはありますか?
日本では国籍の異なる友人と接する機会は少ないですが、留学先では多様な価値観に触れ、自分の視野が大きく広がりました。「自分の常識がすべてではない」ということは頭では理解していたものの、実際に異なる背景を持つ人々と交流する中で、それを実感として捉えられるようになりました。その結果、これまで当然だと思っていた前提を一度立ち止まって疑う姿勢が身に付いたと感じています。
また、生活面ではたくましさも養われました。大学が提供する学生寮で共同生活を送ったのですが、必ずしもすべてが順調というわけではありませんでした。例えば、共有キッチンではゴミ捨てのルールや食文化の違いから衝突が生じることもありました。受け入れにくいと感じる場面もありましたが、「こういう考え方もあるのだ」と理解しようとする姿勢が自然と身に付いた、刺激的で興味深い経験でした。
Q. 留学をする中で特に苦労したことはありましたか?
最初の頃は語学面で苦労しました。英語はある程度できると思っていましたが、実際に現地で生活してみると想像以上に難しさを感じました。授業は理路整然と進むため理解できましたが、英語ネイティブとの日常会話は難しく、特に雑音の多い場所では会話が成立しないこともありました。こうした日常的なコミュニケーションの場面こそ学びが多いと感じていたため、悔しい思いをすることも多かったです。
最終的には慣れや話しやすい人と仲良くなることによって徐々に改善しましたが、1年間で完全に克服できたかというと難しかったと感じています。
Q. 短期と比べ長期の留学にはどのようなメリットがあると思いますか?
短期留学は「暮らす」というより「体験する」に近いと感じています。高校生の時にガーナで2週間過ごした際には、現地の生活や習慣を深く理解し、「ガーナの人々にはこうした特徴がある」と肌で感じるまでには至りませんでした。一方で、イギリスで9か月間生活すると、日常の中で文化的な特徴を理解し、「イギリスらしさ」を認識できる場面が格段に増えました。
語学力は滞在期間に比例して伸びると実感しています。ただし、滞在が半年を超えるとカルチャーショックを受けるような機会は減っていきます。
Q. 他に参加された東京大学の海外プログラムはありますか?
東京大学の海外プログラムは、全学交換留学、海外大学との提携による短期プログラム、体験活動プログラムの大きく3種類に分かれていると思います。私は体験活動プログラムにも参加し、モルディブを訪れました。これらのプログラムは個々のニーズに合わせて海外経験を積むことができますし、1・2年生でも参加することができます。その意味で、東京大学の海外プログラムは非常に充実していると感じています。
Q. 海外を経験することは重要だと思いますか?
私は高校2年生の時に参加したボランティアが大きな転機となり、海外志向が強まりました。もしその機会がなければ、今の自分にはつながっていなかったと思います。人の意識はきっかけがなければ変わりにくいため、たとえ1週間でも海外に出る経験は重要だと考えています。
Q. 高校生のとき、海外の大学への進学は考えませんでしたか?
当時はそもそも選択肢に入っていませんでした。仮に進学を考えたとしても、高校3年生の時点では英語力が十分ではなかったと思います。東京大学に進学し、英語の授業やゼミで毎週英語文献を読む中で、留学に必要な英語力が身に付いたと感じています。
Q. 海外の大学に進学するとしたら、どのような学びや課題があると考えますか?
海外で4年間生活すれば、どこでも生きていける力が身に付くと思います。人間関係の構築について言えば、私の場合は「1年で帰国する」という前提がありましたが、正規進学では一から関係を築き、その国の文化に溶け込む力が求められます。
一方で、資金面の負担は大きな課題です。私は1年間の留学でも、金銭面で親や家計に大きな負担をかけてしまうと感じました。全学交換留学だったため学費は東京大学と同額でしたが、正規進学の場合は学費が高額になることも多く、さらに物価も高いため、3~4年間の滞在には相当の費用が必要です。こうした点を考えると、誰にとっても気軽に選べる進路ではないと思います。
Q. 近年、「若者の内向き志向」が指摘されることが多いですが、同世代の若者を見ていて「内向き」であると感じることはありますか?
高校まではその傾向を感じることもありましたが、大学ではあまり強いとは思いません。入学後に所属した国際政治経済を学ぶゼミでは、14人中10人が留学するような環境だったこともあり、内向きだと感じる場面は少なかったです。
ただし、留学しても海外でキャリアを築く人は多くないと感じています。海外の大学院に進学する人はいますが、最終的には日本で就職するケースが多いと感じます。海外で生活すると日本の良さが見えてくるため、「海外でも働いてみたいが、最終的に住むのは日本」と考えるようになる人も多いのではないかと思います。
Q. 大学等からこういった支援やプログラムが提供されていれば良かったなと思うことはありますか?
強いて挙げるとすれば、語学力を伸ばすためのプログラムが授業以外ではやや少なく、基本的には自分で取り組むしかない点です。語学面でのサポートがもう少し充実していれば、留学を目指す学生にとって大きな助けになると感じます。
また、東京大学の体験活動プログラムは非常に良い制度でありながら、学内での認知度が低いことが課題だと思います。認知度を高め、支援を拡充することで、全学交換留学に行くほどの時間的・経済的余裕がない学生でも、より気軽に海外経験を積めるようになるはずです。
さらに、金銭面について言えば、東京大学の海外プログラムはある程度の経済的余裕を前提としているように感じます。補助が出る場合もありますが、一定の自己負担は避けられず、その結果、参加できる学生が限られてしまいます。大学生のうちに一度も海外を経験しないまま社会に出るのは非常にもったいないと思います。もちろん一律の補助は必要ないと思いますが、所得に応じた経済的支援が拡充されれば、より多くの学生が海外に挑戦しやすくなるのではないでしょうか。
※(大学注)東京大学での留学や海外経験への経済的支援は年々充実してきており、 経済的余裕が少ない学生が参加できるプログラムも増えています。